美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その25)

2019年09月19日 22時22分34秒 | 経済


*モスラ―は、「財政赤字は、民間貯蓄によって穴埋めされたり民間貯蓄を減らしたりするのではなくて、却って、民間貯蓄を財政赤字と同じ額だけ増やす。それは、単なる会計実務上の事実である」と述べています。

この第3のinnocent fraud は、トップエリート層においてしぶとく生き残っています。だから、財政赤字が実際はどのようなものなのかを説明しましょう。それは決して単純化できないものですが。

USドルの財政赤字は、実業家や家族や居住者や非居住者、すなわち、いわゆる民間部門の手持ち(USドルの金融資産)の純増加の合計に等しいのです。

別言すれば、政府の赤字は、1セント銅貨に至るまで、民間部門の“貯蓄”に等しいのです。

ざっくりと言ってしまえば、政府の赤字は、(1セント銅貨に至るまで)私たちの貯蓄を増やすのです。
これは、会計学上の事実であって、理論でも哲学でもないのです。だから、議論の余地はありません。これは、基礎的な国民所得会計上の事実なのです。たとえば、もし去年の政府の赤字が1兆ドルならば、それは、民間部門の金融資産の貯蓄額の純増加分が1兆円ぴったりであることを意味します(もしも、あなたが経済学をいかほどかかじっているなら、金融資産の純増加分は、現金と財務省証券とFRBに口座を設けている銀行の預金の合計であることを思い出してもよいかもしれません)。これは、経済学のイロハであり、first year money banking です。

*first year money bankingの訳はよく分かりませんが、「経済学のイロハ」と類義語であることは文脈上分かります。

以上は、議論以前の自明なことがらです。会計学上、自明なのです。ところが、これまでずっと綿々と誤り伝えられてきました。政治的な権威の最高レベルの人々がそうなのです。彼らは、単純に間違っているのです。

CBO(議会予算事務局)のだれにでもいいから、私がかつてしたように、財政赤字のことを尋ねてみてください。彼らはきっと言うでしょう、「収支の帳尻を合わせなければならない。政府の赤字は、民間部門の新たな貯蓄と一致するのだから。さもないと、徹夜で会計上のミスを見つけなければならなくなる」と。

以前言ったように、それは、政府の表計算ソフト上の数値の記入の合計なのです。政府が支出したら「政府」勘定に借方記入をし(差し引きをし)、それらのお金を得る者の諸勘定(口座)に貸方記入をする(加算する)のです。政府の会計勘定が減少したら、その分きっかりとほかの誰かの会計諸勘定が増加するのです。

*「政府の財政赤字は、現状では家計と法人部門の貯蓄超過が穴埋めしている。」
 「将来も国内の民間金融資産で政府債務を支えられるか。」
これらは、2015年12月24日の日経新聞朝刊「日本財政は大丈夫か(3) 民間の貯蓄超過が支え」 から引いたものです。これらが、日本に流布している、言いかえれば、財務省が流布させたがっている、財政赤字の「通説」です。日本人の99%は、ばくぜんとそう信じているものと思われます。ところが、モスラ―によれば、それは端的に誤りであって、財政赤字は、民間貯蓄によって穴埋めされたり民間貯蓄を減らしたりするのではなくて、却って、民間貯蓄を財政赤字と同じ額だけ増やすのです。それは、理論ではなくて単なる会計実務上の事実である、と。

財政赤字をめぐる「通説」とモスラーの説のどちらが正しいのか。その真偽は、注目に値します。というのは、もしもモスラ―の説が正しいのなら、財政赤字による民間資金の不足などまったく起こらないので、金利の暴騰などありえないということになります。つまり、財政赤字は、正統派経済学者や大手マスコミが言いつのっているのとは逆に、それ自体として、何ら問題ではない。すなわち、財政破綻にも、増税の不可避性にもつながらない。事は重大です。固唾をのんで、論の運びを見守りましょう。

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