美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その21)

2019年09月12日 18時58分44秒 | 経済


*貿易収支の実務に関する、興味深い指摘がなされています。

では、私たちは、中国とどうやって清算するのか?

国債の清算について思い悩む人たちは、たぶん、国債が借方と貸方という会計操作上の仕組みのなかでどう扱われるのかよく分かっていないのでしょう。でなければ、彼らは、上記の太字の疑問がまったく不適切なものであることに気付くでしょうから。彼らが理解していないのは、ドルも合衆国財務省の負債(すなわち財務省証券)も共に“口座”にすぎない、そうして、その“口座”は、合衆国政府が自分自身の帳簿上に作った数字以外の何物でもない、ということです。

*ここがどうしてもピンと来ない、という方は、「政府は、自国通貨の発行権を有する」という一事を思い出してください。そうすれば、「政府の負債は、帳簿上の数字以外の何物でもない」というくだりがお分かりになるはずです。たとえば、あなたに1億円という多額の借金があったとしても、あなたが通貨発行権を有するならば、その借金はただの数字に化けてしまう、ということです。ちなみに、ニセ札を造った場合、無期又は3年以上の懲役(刑法第148条第1項)です。このように厳罰に処されるのは、それを放置した場合、つまり政府以外の経済主体に通貨発行権を認めた場合、経済秩序がめちゃくちゃになってしまうからです。それくらい、政府が独占する通貨発行権のパワーは絶大である、ということにもなります。政府の財政を家計と並べて論じることがいかに馬鹿げた振る舞いであるのかも、この一事から分かるのではないでしょうか。

では、私たちがどうやって今日中国とともにある場所にたどり着いたのかを見てみるところから始めましょう。中国が私たちに物を売りたいと思い、私たちがそれらを買いたいと思ったとき、すべてが始まりました。たとえば、合衆国陸軍が中国から1億ドル相当の制服を買いたいと思い、中国が合衆国陸軍に1億ドル相当の制服を売りたいと思ったとしましょう。すると合衆国陸軍は中国から1億ドル相当の制服を買いますね。まずは、お互いハッピーですよね。“不均衡”などまったくありません。中国は、制服よりも1億ドルを持つことを望みます。でなければ、それらを売ろうとはしないでしょう。他方、合衆国陸軍は、お金よりも制服を持つことを望みます。でなければ、それらを買おうとはしないでしょう。取引はすべて自発的なものであり、すべてUSドルで行われたものです。しかしここで、私たちの論点に立ち戻りましょう。どうやって中国は支払うことになるのでしょうか。

中国は、FRBに準備金口座を持っています。思い出してください、準備金口座とは、当座預金口座の美名にすぎません。FRBが、当座預金口座を準備金口座と呼んでいるだけなのです。中国への支払いに際して、FRBは、FRBに設けられた中国の当座預金口座に1億ドルを付け加えます。単に、中国の当座預金口座の数字を1億ドル分上乗せするだけのことです。その数字がほかのどこかからもってこられたものでないのは、フットボールの試合におけるスコアボードの数字がほかのどこかからもってこられたものではないのと同じです。中国は、1憶ドルをそのままの形で持つか、あるいは、合衆国財務省証券を買うか、いずれかを選ぶことができます。

*FRBというアメリカの中央銀行は、政府とともに「統合政府」と見なすことができます。つまり、経済政策のうち、政府が財政政策を担当し、中央銀行が金融政策を担当するので、両者を「統合政府」とみなす、と考えるのです。たとえば、IMFなどがそういう考え方を採っています。なにが言いたいのかといえば、政府の有する通貨発行権を「統合政府」が有するものととらえれば、FRBに設けられた中国の当座預金口座の残高の増加が単なる数字の上乗せにすぎない、という指摘がよく分かるのではないか、ということです。
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