美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

従軍慰安婦についてのオバマ発言の確認

2014年04月28日 15時16分45秒 | 政治
従軍慰安婦についてのオバマ発言の確認

美津島明


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26日の共同記者会見での、従軍慰安婦についてのオバマ発言の「衝撃」の余波が、まだ冷めやらぬ感じである。頭を整理するために、オバマは、実際のところどういう発言をしたのか、確認してみよう。まず問題発言とされる箇所の原文を掲げ、次に政治学者・櫻田淳氏の訳をつけよう。彼の訳を選んだのは、過不足のない正確な訳であると思ったからである。

Finally, with respect to(~を顧慮すると) the historical tensions (緊張)between South Korea and Japan, I think that any of us who look back on the history of what happened to the comfort women(慰安婦) here in South Korea, for example, have to recognize that this was a terrible, egregious(とんでもない, とてもひどい)violation (侵害)of human rights. Those women were violated in ways that, even in the midst of war, was shocking. And they deserve to be heard; they deserve to be respected; and there should be an accurate(正確な) and clear account of what happened.

 「最後に、韓国と日本の歴史軋轢に関していえば、私が思うところでは、たとえば此処、韓国の慰安婦に何が起こったかの歴史を振り返るわれわれの誰もが、これが甚だしくも酷い人権侵害の一つであったことを認識しなければらない。これらの女性たちは、戦争の最中であるとはいえ、ショッキングな仕方で陵辱されたのである。そして、彼女たちの声は耳を傾けるに足るものだし、彼女たちは尊重されるに相応しい。何が起こったかについて精確にして明快な説明があるべきだ」。


左派系のメディアは、「甚だしくも酷い人権侵害」という発言の部分を、「おそましい人権侵害」と「意訳」して鬼の首でも取ったように報道しつづけ、保守系の論客は、同じ箇所が、オバマの慰安婦問題についての不勉強ぶりを示す発言であると怒るか、あるいは、オバマの慰安婦発言そのものが事実無根であり、反日メディアの捏造記事にほかならないと断定している。

いずれも、バランスを失した受けとめ方であると私は考える。国益の観点からすれば、上記アンダーラインの箇所を重視し、河野談話の見直し作業を是とする言質がとれた好機としてオバマ発言をとらえ、粛々と同作業を進めることが妥当であると考えるからである。それには、従軍慰安婦問題を捏造した朝日新聞の報道姿勢を根底から問い直す作業が伴うことはいうまでもない。国益をいちじるしく損なってまでも守らなければならない報道の自由などというものはないのであるから。いうまでもないことだが、国際政治において、事実無根の情報に基づいて国家のマイナス・イメージを流布することは、著しく国益を害する。

話を戻そう。

むろん、政治家の発言のうち突出した部分が、文脈とは関係なくそれ自体が流布してしまうことには、やむをえない側面がある。政治的発言とは、そういうものなのである。その意味では、オバマ発言は軽率・不用意のそしりを免れない。しかし、そのことをいくらあげつらってみても、国益に資するところはあまりない。

参考までに、その続きを見ておこう。適当な訳が見つからなかったので私訳で勘弁していただきたい。

I think Prime Minister Abe recognizes, and certainly the Japanese people recognize, that the past is something that has to be recognized honestly and fairly(公正に). But I also think that it is in the interest of both Japan and the Korean people to look forward as well as backwards and to find ways in which the heartache and the pain of the past can be resolved, because, as has been said before, the interests today of the Korean and Japanese people so clearly converge.(一点に集まる) They’re both democracies. You both have thriving (繁栄する)free markets. Both are cornerstones(肝要なもの) of a booming(急速に発展する)economic region(地域). Both are strong allies (同盟国)and friends of the United States. And so when you think about the young people of the Republic of Korea and Japan, my hope would be that we can honestly resolve some of these past tensions, but also keep our eye on the future and the possibilities of peace and prosperity for all people.

安倍首相と日本国民は、その過去は、正直にまた公正に認識されねばならないと思っていることを、私は確信している。しかしながら、過去の心痛と苦痛を解決しうる方法を探し出すために後ろを振り返るのと同じくらいに前を見ることが、日本と韓国の国益にかなっているとも、私は考える。なぜなら今日、韓国と日本の国益は、明らかに一致しているからである。すなわち、両国ともに民主主義国家である。両国ともに繁栄する自由市場を持っている。ともに、急速に発展する経済地域の主要国である。ともに、合衆国の強力な同盟国であり、友好国である。そうであるがゆえに、韓国と日本の若者たちについて考えるとき、われわれはこれらの過去の緊張を心から解決しうるし、われわれの目を未来とすべての人びとの平和と繁栄の可能性に差し向け続けうると、私は思っている。


全体の文脈は、「韓国の言い分もわかる。しかし、あまり過去ばかりに目を向けていないで、未来にもっと目を向ける方がいい。その方が国益にかなっているし、平和と繁栄をもたらす」となっていることがこれで分かるだろう。別にオバマの肩を持つわけではないが、彼は彼なりに方々に気を配りながら慎重に言葉を選んでいるのが分かる。彼は、彼の力量の範囲内で覇権国家のトップとして当然の振る舞い方をしているに過ぎないのである。

むろん、「だったら、慰安婦に関しては、もう少し穏当な言葉を選んでほしかった。日本にとって、はた迷惑である」という声が上がるのはやむをえない側面もある。しかし、先ほどの国益最優先の構えを尊重するのならば、その声は最小限にとどめておくのが、功利の側面から妥当であると私は考える。オバマなどしょせんは、市民運動あがりの政治家の通弊であるバカ・サヨクのDNA保持者であって、その意味で二流の政治家に過ぎないのだから、部分的に突出発言があったからと言って過剰にいきり立つ必要などない。われわれは、冷静に、何か国益にかなっているのか、見極めればいいのである。

その意味では、一部報道機関が報じているように、TPP交渉に関して、公式発表とはうらはらに、日本政府が安易な妥協をし、アメリカ側と実質合意をしていたのならば、日本政府は、愚かにも、もはやレームダックにすぎないオバマに対する意味のない過剰濃厚サービスを提供したと評するよりほかはない。
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