マキペディア(発行人・牧野紀之)

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障害者(雇用)

2010年01月19日 | サ行
   事業協同組合で拡大を図れ

     静岡県藤枝市社会福祉課長、尾原 国仁(おはら・くにひと)

 私の勤める社会福祉課では、3人の障害者が働いている。仕事の内容は、各課から依頼されてくる廃棄文書の整理、資料の封入、パンフレットの修正などであるが、彼らは実に根気よくこなし、必要不可欠な人材となっている。

 この担当に就いて5年近く。その間、私は障害者が生き生きと働く会社や障害者を雇用したことがない会社を多数訪問してきた。障害者を雇用したことのない会社の人事担当者は異口同音に「我が社には障害者がする仕事はない」「障害者にどのような仕事ができるかわからない」などと、障害者の能力や適性を理解しないで、与える仕事はないと言う。

 障害者雇用促進法は、従業員56人以上の企業に、法定雇用率(1.8%)以上の障害者を雇うよう義務づけている。

 私は、障害者・雇用者側双方にとり、理想的な働く環境は「特例子会社」と感じている。これは、障害者を集中的に雇用する子会社をつくることにより、親会社(そのグループ会社も含む)の法定雇用率を達成しようとする制度だ。集中的に雇用することで、障害者の特性に配慮した仕事の確保、職場環境の整備、専門スタッフや指導員の配置などが容易になる。

 しかし、子会社を組織できるほどの会社はおおむね大手の上場企業に限られ、地方の小さな都市には、そうした企業は少ない。そこで私はかつて内閣府に対し構造改革特区の申請をしたことがある。複数の中小企業が1つの会社の株を一定程度所有することにより、共同で特例子会社を傘下に置き、そこで集中的に障害者を雇用するという提案だった。結果は、企業同士の関係が希薄との理由で認められなかった。

 ところが障害者雇用促進法が改正され、2009年04月から、中小企業が事業協同組合などを活用して協同事業を行い、他社と共同で障害者を雇用した場合、雇用率に算入できるようになった。この制度の成立は、中小企業の比率が高い地方都市にとって画期的であり、ぜひ推進する必要がある。しかし、事業協同組合を新たに設立する場合、どの企業と組めばいいかなど制度の難しさやPR不足もあって、制度発足以来、まだ設立事例は1件もない。国は組合設立のノウハウを持った支援員を全国に配置するなどして制度を広めるべきである。

 2009年06月時点の全国の障害者雇用率は1.63%で、法定雇用率を下回っている。法定雇用率を達成している企業の割合も45.5%で、過半数の企業が法律を守っていない。守る者が少数という状況が長期間続く法律が他にあろうか。就労の機会が平等に与えられる社会の実現こそが、障害者福祉政策にとって何より重要だと考える。

 (朝日、2010年01月17日)
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