問題意識・(2014年)7月13日の朝日新聞の朝刊の小説「マイストーリー」(林真理子作)を読んでいたら、「その編集者の持っているものの大きさは、若い早稲田の学生の比ではなかった」という文がありました。
明鏡で「比」を引きますと、「くらべてみて同等・同類であること」とあり、用例としては「今日の寒さは昨日の比ではない」が載っています。新明解を引きますと、「(比べられるほどの)同類のもの」とあり、使い方としては「~の比ではない」「比類」「無比」とあります。
第1の感想・「~の比ではない」と否定的に使われるだけで、肯定的な使い方はないのでしょうか。もし「ない」とするならば、肯定的な場合はどのように言うのでしょうか。「AはBと肩を並べうる」「比肩できる」などでしょうか。
01-1、ことし没後百年を迎えたリヒャルト・ワーグナーは、~バッハ、ベートーベンに比肩するようなダム的存在である。(読売新聞、1958,02,09)(学研の国語大辞典から孫引き)
01-2、一々新機軸を打ち出して居るところは殆ど比肩すべき人を見出せない。(正岡子規「病床六尺」)(学研の国語大辞典から孫引き)
第2の感想・「AはBの比ではなかった」と言うのは、Aの方が上の場合だけで、劣る場合には使わないのでしょうか。劣る場合にはどういう言い方があるのでしょうか。Aの方が下の場合の表現としては、「AではBとは比べ物にならない」とか、「AはBの足元にも及ばない」などでしょうか。
02、その哀れな点では曾てのあの莟(つぼみ)の比ではない。(佐藤春夫「田園の憂鬱」)(学研の国語大辞典から孫引き)
感想・これは「哀れさで~より凄い」と言っているわけですから、意味内容からみると「劣っている程度が大きい」となりますが、「哀れさ」自体としてはその程度が「上だ」と言っているわけで、やはり「Aの方が上の場合」と考えるべきでしょう。
03、現役の編纂者(へんさんしゃ)として、間違いなくトップクラスの用例採集家と言っていい飯間さんが、自分など〔ケンボー先生の〕足元にも及ばないと言っていた。(佐々木健一著『辞書になった男』文芸春秋、139頁)
PS1(2014年08月03日加筆)
04-1、伊藤證信が村〔新しき村〕を訪問したとき、伊藤は「村の食事の貧しさだけは比類がない」といった。(関川夏央著『白樺たちの大正』文藝春秋38頁)
04-2、〔川島伝吉は〕いったん参加すると疲れを知らない働き者となった。ことに長距離を重いものを背負って歩く持久力には比類が」なかった。(同書41頁)
感想・「比類がない」も肯定的な点についても否定的な点についても使えるようです。しかし、明鏡の用例には「比類なき壁画の傑作」、新明解の用例には「世界に比類がない名作(才能)」といったように、肯定的な点での「比類の無さ」の表現例しか載っていません。
明鏡で「比」を引きますと、「くらべてみて同等・同類であること」とあり、用例としては「今日の寒さは昨日の比ではない」が載っています。新明解を引きますと、「(比べられるほどの)同類のもの」とあり、使い方としては「~の比ではない」「比類」「無比」とあります。
第1の感想・「~の比ではない」と否定的に使われるだけで、肯定的な使い方はないのでしょうか。もし「ない」とするならば、肯定的な場合はどのように言うのでしょうか。「AはBと肩を並べうる」「比肩できる」などでしょうか。
01-1、ことし没後百年を迎えたリヒャルト・ワーグナーは、~バッハ、ベートーベンに比肩するようなダム的存在である。(読売新聞、1958,02,09)(学研の国語大辞典から孫引き)
01-2、一々新機軸を打ち出して居るところは殆ど比肩すべき人を見出せない。(正岡子規「病床六尺」)(学研の国語大辞典から孫引き)
第2の感想・「AはBの比ではなかった」と言うのは、Aの方が上の場合だけで、劣る場合には使わないのでしょうか。劣る場合にはどういう言い方があるのでしょうか。Aの方が下の場合の表現としては、「AではBとは比べ物にならない」とか、「AはBの足元にも及ばない」などでしょうか。
02、その哀れな点では曾てのあの莟(つぼみ)の比ではない。(佐藤春夫「田園の憂鬱」)(学研の国語大辞典から孫引き)
感想・これは「哀れさで~より凄い」と言っているわけですから、意味内容からみると「劣っている程度が大きい」となりますが、「哀れさ」自体としてはその程度が「上だ」と言っているわけで、やはり「Aの方が上の場合」と考えるべきでしょう。
03、現役の編纂者(へんさんしゃ)として、間違いなくトップクラスの用例採集家と言っていい飯間さんが、自分など〔ケンボー先生の〕足元にも及ばないと言っていた。(佐々木健一著『辞書になった男』文芸春秋、139頁)
PS1(2014年08月03日加筆)
04-1、伊藤證信が村〔新しき村〕を訪問したとき、伊藤は「村の食事の貧しさだけは比類がない」といった。(関川夏央著『白樺たちの大正』文藝春秋38頁)
04-2、〔川島伝吉は〕いったん参加すると疲れを知らない働き者となった。ことに長距離を重いものを背負って歩く持久力には比類が」なかった。(同書41頁)
感想・「比類がない」も肯定的な点についても否定的な点についても使えるようです。しかし、明鏡の用例には「比類なき壁画の傑作」、新明解の用例には「世界に比類がない名作(才能)」といったように、肯定的な点での「比類の無さ」の表現例しか載っていません。