マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

一層

2014年07月28日 | ア行
 01、それには、先に三省堂から発行されていた「金田一京助(きんだいち・きょうすけ)編」の中学・高校の国語教科書によって一層高められていた「金田一京助ブランド」の知名度・信用度も貢献していた。(佐々木健一著『辞書になった男』文芸春秋、104頁)

 感想・「一層」の語釈として、明鏡は「それより以上に程度が高まるさま」とし、新明解は「それまでにもある段階に達していたところに、その条件が加わることでより程度の進んだ状態になる様子」としています。

 私なら次のように書きます。「『層』は建物の一つの『階』のことでしょうから、『一段と』という意味の副詞が元の意味ないし用法でしたが、欧米語の比較級に接して、比較級という観念が無く、比較級を原級で表現していた日本語に、それに対応する言葉が必要だと思った人々が多用するようになった」。ここも、本来なら、「中学・高校の国語教科書で高められていた金田一ブランドの知名度」で十分だったでしょう。

 用例としては、明鏡は「台風の接近で風雨が一層激しくなった」を挙げています。新明解は、「末っ子だから一層可愛い」等を挙げています。前者は「一層」が無くても同じですが、後者では「一層」が必要でしょう。ネイティヴによる英訳で比較級が使われるか否かを見てみるのも、考えるヒントを与えてくれるでしょう。誰か、適当な用例(和文とその英訳)を教えてください。

 ★ より

 明鏡は「比較を表す副詞の『より』」についてこう書いています。「格助詞「より」から。今では翻訳的な感じもなくなったが、もともとは欧文の比較級を訳すために案出されたもの」。新明解は「翻訳調の言い方で」としているだけです。我々はガキの頃、「よりベター」などと言ってふざけたものです。

 02-1、長期の療養生活を経て気力と体力を取り戻したケンボー先生は、その後、辞書作りという仕事により一層、情熱を傾けていく。(『辞書になった男』文芸春秋、102―3頁)

 02-2、山田〔忠雄〕の語釈は、版を重ねるごとにより先鋭化し、過激になっていった。(佐々木健一著『辞書になった男』文藝春秋、243頁)

 02-3、野田氏は長男の誕生がきっかけになり、障害児の問題により力を入れて取り組んでいる。(朝日、2014年07月26日、秋山訓子)

 感想・今では当たり前のように使われる「より一層」ですが、本来は重言でしょう。用例01の感想の中で引きました明鏡の語釈の中にも「より以上に」などという表現が見られます。一般的に言って、日本人による外国語文献の翻訳は直訳にすぎる傾向があります。

 02-1は「ますます情熱を傾けていく」で十分でしょう。02-2も02-3も、「より」は、本来は、いらなかったものでしょう。そう言うと、02-3などは、「より」がないと「以前にも増して」ということがはっきりとは分からなくなる」と反論する人もいるでしょう。しかし、日本語はそういうものだったのではないでしょうか。「より」が無くても「大体」分かるじゃないですか。

 ★ 比較級を日本語はどう表すか。英独仏はそれをどう訳すか。

 01、しかし我々は真面目でした。我々は実際偉くなるつもりでいたのです。ことにKは強かったのです。
 独・Aber wir meinten alles ernst und hatten uns tatsächlich vorgenommen, einmal beruümt zu werden. K. mehr noch als ich.
 英・K’s willpower was particularly strong.
 仏・K surtout, qui avait une grande force d’âme.

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