マキペディア(発行人・牧野紀之)

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事業仕分け(02、終えて)

2009年12月13日 | サ行
事業仕分けを終え科学技術予算について思うこと

                      JT生命誌研究館館長、中村 桂子

 行政刷新会議の「事業仕分け」に、仕分け人として参加しました。今回の事業仕分けは「個別事業について無駄を見出す」という試みとしては、一定の成果をあげたと思います。また、研究者と官庁の間の話し合いで組み立ててきた中での常識が、必ずしも社会の常識と合致するものではないという例にも出会い、開かれた議論の重要性を実感しました。

 科学技術予算については、総合科学技術会議、旧七帝大+慶応・早稲田の学長、ノーベル賞受賞者、自然科学研究機構などの独立法人、学会などから批判の声が相継ぎました。教育、学術を含めて科学技術の重要性は認めますが、これらの反応が、今回の事業仕分け全体を見て、その中での科学技術予算のあり方を考えたうえでの判断ではなく、「とにかく科学技術予算を削ったのはけしからん」というものであったのには、大きな問題を感じました。科学技術(私自身は科学ですが今は予算は科学技術しかありません)の重要性がわかっていないときめつけていたこと、実態を分析して解決策を提案するものではなかったことも問題です。

 この10年ほど、「集中と選択」というかけ声のもとバランスを欠いた予算の組み方がなされてきたことは、研究者の誰もが感じていることです。誤解を恐れずその実感を表現するなら「予算を削られるより、バランスを欠いた予算配分の方が学問を壊す力は大きい」と言ってよいと思っています。

 たとえば、麻生内閣の補正予算でつけられた2700億円の先端研究助成基金は、1000億円に削減されたという話を聞きましたが、それにしても乱暴な話です。これほど大きな額のお金を学問としての必然性なしに出すこと自体おかしいと思います。この提案があった時に「研究の本質が分からずに勝手なことをされては研究者コミュニティが壊れる」と抗議をし、「本当に必要な研究を必要な額支援すること」を求めるという行動を今回抗議なさった方達にとっていただきたかったと思います。そのうえで、今回の削減にも「本当に必要な研究に必要な額出すこと」を求められたのなら、筋が通って納得できます。しかし、ただお金の要求では説得力に欠けます。お金が多ければ多いほど研究成果があがるということではありません。

 くどいようですが、「大事な研究に本当に必要な額をつける(それは削らない)」ことが必要なのであり、今回の仕分けの結果を専門家が検討し、もしそのようなところがあったら「必要な額」に戻さないと角をためて牛を殺すことになります。この作業はどうしても必要です。是非専門家にそれをやらせて下さい(スーパーコンピューターも含めて)。皆でていねいに考えること。学問の世界にはこれが不可欠です。本日の新聞でその方向が出されたことを知り、これからに期待しています。

 昨日(11月30日)、COEという文科省のプロジェクトに関する会合がありました。そこで「継続性」について活発な議論がありました(これは仕分け作業の時に私が指摘したことと重なります)。これまでこのような議論はなかったので、驚くと共にすばらしいと思いました。考えることが始まったように思います。仕分けの効果と私は受け止めましたが、そうだとよいのですが。

 (構想日本のメルマガ、2009年12月04日)


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1 コメント

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なぜ文科省を解体しないのか (大和)
2009-12-14 20:03:53
学校現場から、文科省の愚民化政策を暴露したのが、「『おバカ教育』の構造」(阿吽正望 日新報道)です。公僕である文科省官僚は、この知識時代に、子供達に愚民化教育を行い、学校を崩壊させ、20万人の不登校、退学者、60万人の引きこもり、ニートを作りだしました。多くの若者を失業者、生活困窮者にしたのは、本来優れた教育で職業獲得を支援すべき文科省です。これは、薬害エイズや薬害肝炎を起こした厚労省官僚の罪を越えます。子供達の人生を困難にし、日本社会の未来を潰した許されない悪行です。
愚民化教育をやめさせ子供を救うためにも、二度と不幸を生まないためにも、キャリア官僚制、天下り、公務員特権を廃止して、官僚政治を根絶やしにすべきです。急がなければ多くの不幸が続きます。
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