実証主義の見本
茨城大学教育学部のK教授が全国の公立小中学校の教員3500人を対象に郵送で調査をし回答率は62%だったと、(2001年)03月17日付け朝日新聞に報じられています。
それによると、小中全体で、困難に感じた体験は、
不登校児(42%)、生徒間のいじめ(32%)、生徒の非行(24%)
の順だそうです。
いずれも中学だけを見ると、
不登校児(61%)、生徒の非行(52%)、生徒間のいじめ(42%)
と飛び抜けています。
困難な体験として「授業が成立しないこと」をあげた先生は、中学校で15%で、小学校の8%を上回り、「学級崩壊は小学校で多い」という見方とは逆の結果となっています。
不登校児への指導に「自信がある」人は22%で、「自信がない」は30%以上だそうです。
現在感じている悩みについて尋ねたところ、「校務に追われ、授業の準備ができない」、「忙しすぎて学校で子供たちと話す時間がない」、「忙しすぎて私生活が犠牲」の3つが突出して多いと書かれています。
この記事を読んで疑問に思いました。
こういう事だけ調べて何をするつもりなのでしょうか。調査研究は、問題を解決する手段なり方法なりを発見するためだと思います。しかし、こういう調査では解決手段は見えてこないと思います。
「それはこれから考えるのだ」と強弁するかもしれません。しかし、どういう調査をするかに既にその人の考えが出ているのです。白紙で調査を始めるということは事実上ないのです。これまでに何らかの考えがあって、その観点を確かめたり、深めたりするために調査をするのです。ですから、自分の考えを反省して、問題点を解明するような質問をしなければならないのです。漠然と質問しても何も出てきません。
「学校教育は個々の教師がするものではなくて、校長を中心とする教師集団が行うものだ」という考えに立つならば、「校長のリーダーシップ」とか「教師集団のまとまり具合」を聞いたり、それと生徒指導の関係を聞くことになるはずです。そういう事を聞いていないということは、調査をしたK教授にそういう観点がないということです。
私の生徒が、新聞に載っていたこととしてこういう実例を教えてくれました。
──長野県の或る中学校での出来事である。不登校の生徒のために校長自ら夜間中学と称して不登校の生徒を集めて授業を夜、行った。また他の不登校の生徒のそれぞれの個性に合わせて対策を考えた。結果として、不登校の生徒は激減した。
これは校長の熱意が生徒に伝わったものだと考える。また、生徒としても自分の存在感を認識できたのではないだろうか。トップによって変わるものだということを証明したような事例である。──
K教授が本当に問題解決のためにアンケートをしたのだったら、こういう成功例くらい集めてみるべきだったと思います。それをしなかったと思われるこのようなアンケートはほとんど意味がないと思います。これは実証主義の下らなさを証明する見本のような調査だと思います。
しかも3500ものアンケートを郵送したのです。随分、研究費を使ったものです。しかも、国立大学ですから、これは税金から出ているのです。
なお、以上の意見は、K教授の今回の調査の主要内容が新聞記事に全部書かれていると前提しての意見です。もし以上の視点が実際にはK教授の調査項目の中にあったのに新聞がそれを報道しなかっただけだ、とするならば、以上の批判は新聞記事に向けられるべきだと思います。
注・これはメルマガ「教育の広場」 (2001年03月21日発行)からの転載です。