植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

時間をお金に換算するとケチるのはよそう

2021年05月10日 | 篆刻
だいぶ前から、老い先短いことを意識するようになりました。日本人の平均年齢が85歳くらいだとして、50歳くらいになると、いつの間にか自分の人生の半分以上が終わったことに気づくのですね。

 振り返ればあっという間に65年、さすればこれからお迎えが来るのにせいぜい20年というところ。あっという間に人生終了となります。十分人生を楽しんだ、やるべきことはあらかた終わったと観念するのが半分、これから残りの人生を有意義に過ごし楽しまなければ、と思うのが半分です。

 それにしても、隠居する歳まわりというのに忙しくやることが沢山あります。年金暮らしはやることが無くなるなどと聞きましたが、話が違うではないか、というのが素直な感想です。

 篆刻に関しては、定年後いろんなことにチャレンジした中で最もホットな趣味となりました。彫る楽しさのためにヤフオクでどんどん落札して集めた印材の半数は中古品、刻印済みのものであります。よほど素晴らしい彫のものや、著名な篆刻家さんのものを除いて、印面を潰して研磨、新たに彫るというのが前の印の持ち主・作家さん、愛用した書道家さんに対するオマージュであります。

 印面を潰すということをヤフオクの出品者さんは、あまり意識していない方が多いのです。面倒なのか、あるいは彫られた印面にも価値があると考えているのかはわかりません。ただ、先日落札したものは立派な印鑑ケースに収まった象牙の印鑑、印の彫り方からみて実印と思われます。当然本名がそのまま残っています。持ち主の印鑑をそのままオークションにだすのはどうなの?と思います。

 この方はまた、住所氏名を彫った篆刻印を4つも持っていました。印材は良質で、それも、とても見事な篆刻でしたから、名のある篆刻家さんに依頼して彫って貰ったようです。素直に考えれば年賀状など沢山の郵便物を出していたんでしょうが、住所印にも「 滔天刻」の側款がありました。もしかしたら書道家・篆刻家の「 綿引滔天」さんの作ではなかろうかと思います。 雅号または別名「迷亭」としていたようですので、昭和の頃の著名人・粋人・書家文人の類の方かもしれません。因みに迷亭さんといえば、漱石の吾輩は猫であるに出てくる美術学者の先生の名前です。

 こんな住所印は何の利用価値も無いので、速攻で潰すのですが、印面が広いためにサンドペーパーで磨る潰すのも一苦労なんです。粗い#80くらいのサンドペーパーでもなかなか印刀の深い彫が消せません。大きな印面で、特に朱文(字の部分を浮き彫りにする)の場合は、彫って白地にする面積が広くなります。浅い彫り方だと、削ったところに印泥が付いて印字以外の赤いシミや点が出てくるのです。篆刻家さんは、自分の彫ったものが潰されて再利用されるとは思いませんから、篆刻刀で鋭く深く刻むのです。

 指先に力を入れ、石の粉にまみれて2,30分ペーパーをかけ、きれいに平らに擦って粗く潰した後、徐々に目の細かいサンドペーパーで仕上げるのですが、ふと思いました。この印面を潰す苦労と時間は無駄なのではないか、と。まだ数十個の大きな印材を潰すつもりです。一個20分として50個なら1000分、16.7時間です。これは会社員の二日分の就業時間、時給換算2000円とすると33千円ほどになります。

 残り少ない人生の時間を無給で無為に過ごしていいものかと考えて、すぐさまホームセンターに駆け込みました。グラインダーが良かろうと思ったのです。刃物研ぎ機、金物の研磨機などを見たのですが、石材印材を平らに研磨するのにはイマイチしっくりしません。水を流しながら研ぐなどというのも面倒だし。そこで見つけたのが、「ベルトサンダー」でありました。キャタピーラーみたいに固いサンドペーパーが回る仕組みで、上から押さえつけて主に木材、床や角材を研磨するようです。ベルト状のサンダーそのまんまのネーミング。サンドペーパーを使って手で前後にこすって印材を削っていくのと同じ理屈になります。コレコレ(笑) 8千円ほどでお手頃価格でしたし。



 下に押さえつけて磨くものですが、天地を逆にしてやってみると、操作も簡単にあっという間に削れました。10本ほどの印面を潰しました。これはラクチン、慣れれば一本1分くらいで削れそうです。粗く研磨するので表面に無数の筋が残りますが、あとは手作業で#800くらいから1000の細目のサンドペーパーで仕上げの磨きを行います。

 貴重な時間です。印面を平らにする時間を刻する時間に振り向けられます。自分の余命がちょっと延びたような・・・早くそうするべきでしたなぁ。

 拙作ですが、最新の「労作」(笑)であります。
コメント
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