植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

印泥を究める その2 ケチケチ使う

2021年05月07日 | 篆刻
ふと手を見ると、右手の中指に立派なタコが出来ておりました。ほぼ毎日、暇さえあれば印を彫り続けているのですから、仕方ありません。勲章みたいなものです。数日前から、少し大作を彫っております。ヤフオクで入手したあまたの印材の中に、下書きしたまま彫らず終いになっているものがあったのです。彫り始める前に何か理由があって中断したのです。

 ワタシも、姓名印を彫るのに、思いつく人はあらかた彫ったので、趣向を変えて彫ってみようというわけです。16文字、前半は中国でおめでたい時に使う祝福文、後半も「千秋萬歳・常楽未来」と長寿長楽を願う言葉であります。

 最初に彫ったのが下段の印であらかじめ彫の文字が墨で書かれていました。緑黄色のやや透明感のある印材で、いかにも柔らかく均質な感じでありましたが、さにあらず、固くてガリガリとした感触の石でした。印刀が引っかかって先に進まず、きれいな直線が引けません。

 通常こうした半透明な石は「凍石」といって柔らかくねばりのある石質が多いのです。わかりました、この印材の持ち主(おそらく篆刻家)が、丁寧に下書きしてちょっと彫ったら期待外れで彫りにくい印材だったのです。広東緑石 など緑色系統の石は、実は固くてジャリジャリしたものが多いのです。

 苦労して彫り上げましたが、残念ながら出来が悪く、がっかりです。これではワタシの名折れなので、もう一度彫ることにいたしました。今度は一般的な寿山石で、すでに刻がある使用済みの印面を念のため印刀で試した後、潰して磨いたものを使いました。文字を少し変えて彫ったのが写真上段の印であります。まだ、ざっくりと彫っただけなので、細かな修正を加えて仕上げますが断然彫り心地が違い、滑らかな線が出せました。

 篆刻はどうやら石の材質が非常に大きな要素になっているのですね。

 ともあれ、印泥のお話であります。昨日は印泥メーカーや商品名について触れました。その2は、入手した印泥の使い方であります。
印泥は新品だと、印合に平らに詰められ、蝋紙のような半透明の紙で封じられています。保管期間中にわずかずつ成分が揮発するのを防ぐのです。紙を剥がしたら上の写真左の様な状態です。ヤフオクではここまでが「未使用」扱いになりますかな。表面に張られているのは「金箔」であります。印泥の中でも上等な等級、八寶印泥は、金箔を使って「ハク」をつけるのです。

 印泥は、当然重さ(内容量)に比例して値段が変わります。だいたい新品ならどこかに装填量が記載されています。一番多い表記が「両装」(30g)であります。これ以外に見かけるのが「克装」、これは1gを指します。1両装が30克装になります。わりに良質な普及品「箭簇 (せんぞく)」では1g200~300円致します。一ランク上がるごとに大体倍になるので、高級品はわずかな無駄もないようけちけち使うのが肝要なのです。例えばヘラに付いた印泥は指先で拭い、印面に擦り付けて押印する、みたいなことですね。

 大体の方は、印泥を貰ったり買ったりしても、普通の朱肉同様このままハンコを押しつけて押印します。それでも別に構わないのですが、書画の落款印として押印する際はちゃんとした作法があるのです。目的は、印泥の表面が乾いたり汚れたりして均一に押せなくなっているのを防ぐためと、押印する際、印の縁より上に無駄に印泥を付けないようにし、印面全体に均等に印泥がいきわたるようにするためです。

 その方法は、まず骨材で作った「ヘラ」で外側からよく混ぜていきます。均質になったら徐々に真ん中に集めて丸く盛り上げお団子状にいたします。あまり高く盛り上げると上蓋に付着届いて汚れますな(笑)。右下の印泥がその作業途中で、もう少し真ん中に寄らせ、表面を均す必要があります。これが出来たら、盛り上がった球面に印を数回に分けて少しづつ「ポンポン」と軽くくっつけます。べったりつけると、溝に印泥が詰まりムラになり高価な印泥が減ります。

 印泥を使うたびにこのように混ぜると言いますが、これでは手間もかかり、少しづつ印泥を減らすことにもなるので、ラップを被せて冷暗所に保管し、1,2か月に一度くらい混ぜるのがいいようです。

このあとの押印については、またいろいろとコツがありますが、それはまた次の機会で。
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