基本に帰り、基本を見直せ
なでしこジャパンは最終戦で、基本を無視したつまらないミスから2失点し自滅した。それは「笛が鳴るまでプレイを止めるな」と、「ディフェンディング・サードでプレスをかけられたらセーフティ・ファーストで」だ。逆にいえば、2つのミスのシーンを除けば今大会でいちばんのデキだったのが悔やまれる。
1失点目は前半19分。日本の右サイドでSB有吉がカナダのベッキーと1対1になる。MF中島が加勢し2枚で対応したためベッキーは縦への突破をあきらめ、センタリングに切り替えた。
ところがセンタリングされたボールが有吉と並んだ中島の腕に当たる。ベッキーが腕を上げて「ハンド!」とコールしたため中島は審判のほうを見た。かたや有吉はセンタリングのボールが飛んだはずの方向に目をやる。その間に、中島の腕に当たり跳ね返ったこぼれ球をベッキーに詰められた。2人がプレイを止めてボールから目を離さなければ、カンタンに防げた失点だった。「笛が鳴るまでプレイを止めるな」だ。
2失点目は後半4分。日本のゴール前にボールがこぼれ、GK山下と見合ったCB熊谷が対応した。ボールを見送りGKにまかせた場合、詰めてきている敵にかっさらわれそうなタイミングではあった。だがそう判断した熊谷は、あの危険なゾーンでボールを「ひと突き」する。で、小突いたボールを敵にさらわれシュートを食らった。「ディフェンディング・サードでプレスがかかればセーフティ・ファーストで」だ。
熊谷はボールを長めにひと突きドリブルして敵をかわし、ボールをビルドアップにつなげようとしたのだろう。だが場所は自ゴールが目の前の危険なエリアだ。ダイレクトでクリアさえしていれば、なんてことはなかった。以上、日本は基本を無視した、たった2つのプレイで負けた。残念だ。
FW菅澤はマーカーを背負いポストプレイができる
立ち上がりのなでしこはハイライン・ハイプレスで入り、緊張感のあるいい滑り出しだった。パスワークは2タッチ以内でこれまでの大会中、いちばん速い。相手ボールホルダーに対してはよくプレスがかかり、タイトな守備だ。中盤では複数の選手による組織的なプレッシングをしていた(ただし修正点は後述)。
特に岩渕と2トップを組んだFW菅澤はマーカーを背負いながら下がってクサビのボールを受け、いったんボールをはたいて、また上がるポストプレイが非常にいい。ボールがよく収まる。
また日本は最終ラインからのビルドアップ時には、両SBのどちらか一方が高い位置を取り3バック気味になる。だがあれをやるなら右SBは今大会不調の有吉より、若い清水のほうが適任のように見えた。ただしいずれにせよ、前半は悪くない内容だった。
前半30分。最終ラインのビルドアップからFW菅澤がポストになってつぶれ、中央にオーバーラップしてきた中島にパス。中島はカナダGKと1対1になりシュート体勢に入ったが、カナダのベッキーに足を払われ倒れてしまった。明らかなPKに見えた。何度も映像をくり返しチェックしたが、中島はスネを蹴られたようにも見えるし、ベッキーの足はボールに行っているようにも見える。微妙な判定だった。
また後半21分には途中出場した右SB清水から、フィールドを斜めに横切る素晴らしいサイドチェンジのボールが左前に開いたMF阪口に入った。だがヘディングで競った阪口はファウルを取られた。映像を見直すまでもなく、ファウルでもなんでもないプレイだった。中島の腕にボールが当たったシーンと合わせ、ハッキリしないジャッジだった。
課題は最終ラインから「どうボールを引き出すか?」
さて、この試合の修正点はどこか? まずなでしこは最終ラインからボールを引き出すのに苦労した。後ろ半分ではボールを回すが、どうしてもビルドアップの1本目の縦パスをカナダの選手に引っかけられる。で、CBからSBにボールが出るが、前をうかがったSBはリスクを避けてまたCBにバックパス。そしてCBが再びSBに出す、というサイクルをくり返していた。
ならば縦パスには、もっと速いボールスピードがほしい。それならカットされずにすむ。なでしこの感覚ならば、「シュートを打つ」ぐらいの気持ちでパスを出してちょうどいい。で、その強いボールをワントラップで次のプレイをするのに「ベストな場所」に置くワンタッチコントロールがほしい。もちろん最終ラインから縦パスを引き出すためのフリーランニング、速い動き出しとオフザボールの動きもいる。
またときには「グラウンダーのボールでビルドアップしよう」という発想を変えるのも方法だ。例えばCBの熊谷からポストのできるFWの菅澤までロングボールを入れ、菅澤がパスをダイレクトで胸トラップし味方にボールを落とせば、次の瞬間にはもうアタッキングサードでボールキープできる。「それは自分たちのサッカー」じゃない、などといわず、そういうチャレンジもどんどんしてほしい。
守備にはディアゴナーレとスカラトゥーラを
守備面では、1人が前に出てボールにプレスをかけ、他の選手がその斜め後ろについてカバーリングに備えるディアゴナーレとスカラトゥーラの動きをマスターしてほしい。
なでしこはボールホルダーに対し2人が行き、敵がドリブルで前進すると守備者2人が横に並んだまま平行にズルズル下がるケースが散見される。味方が引いてくるための時間を稼ぐ場合は別だが、そうでない場合は1人がはっきりボールに対しチャレンジすべきだ。
そのためには接触プレイを怖がらず、スタンディング・タックルで敵にカラダを当ててバランスを崩させる。例えばレスリングではセオリー化されているが、「相手がこの体勢のときには、ココに圧力をかければバランスを崩せる」というポイントがある。研究してみてほしい。
くり返しになるが、この試合はたった2つのミスを除けば今大会でいちばんいいデキだった。FW菅澤が交代し前でボールが収まらなくなったのが悔やまれるが、なでしこ最大のテーマである「相手に劣るフィジカル」の問題もそう感じさせなかった。
なでしこジャパンは、まだ実力の50%も出してない。伸びしろがとんでもなくでかい。ミスを減らし、持てる力をすべて出せればもっともっと勝てる。1人1人はすでに高い技術をもっているのだから、あとはグループ戦術で1+1を「2以上」にすること。そして守備のセオリーをマスターすることだ。
そうすればなでしこは、必ず世界一になれる。その日がくるのが楽しみだ。
なでしこジャパンは最終戦で、基本を無視したつまらないミスから2失点し自滅した。それは「笛が鳴るまでプレイを止めるな」と、「ディフェンディング・サードでプレスをかけられたらセーフティ・ファーストで」だ。逆にいえば、2つのミスのシーンを除けば今大会でいちばんのデキだったのが悔やまれる。
1失点目は前半19分。日本の右サイドでSB有吉がカナダのベッキーと1対1になる。MF中島が加勢し2枚で対応したためベッキーは縦への突破をあきらめ、センタリングに切り替えた。
ところがセンタリングされたボールが有吉と並んだ中島の腕に当たる。ベッキーが腕を上げて「ハンド!」とコールしたため中島は審判のほうを見た。かたや有吉はセンタリングのボールが飛んだはずの方向に目をやる。その間に、中島の腕に当たり跳ね返ったこぼれ球をベッキーに詰められた。2人がプレイを止めてボールから目を離さなければ、カンタンに防げた失点だった。「笛が鳴るまでプレイを止めるな」だ。
2失点目は後半4分。日本のゴール前にボールがこぼれ、GK山下と見合ったCB熊谷が対応した。ボールを見送りGKにまかせた場合、詰めてきている敵にかっさらわれそうなタイミングではあった。だがそう判断した熊谷は、あの危険なゾーンでボールを「ひと突き」する。で、小突いたボールを敵にさらわれシュートを食らった。「ディフェンディング・サードでプレスがかかればセーフティ・ファーストで」だ。
熊谷はボールを長めにひと突きドリブルして敵をかわし、ボールをビルドアップにつなげようとしたのだろう。だが場所は自ゴールが目の前の危険なエリアだ。ダイレクトでクリアさえしていれば、なんてことはなかった。以上、日本は基本を無視した、たった2つのプレイで負けた。残念だ。
FW菅澤はマーカーを背負いポストプレイができる
立ち上がりのなでしこはハイライン・ハイプレスで入り、緊張感のあるいい滑り出しだった。パスワークは2タッチ以内でこれまでの大会中、いちばん速い。相手ボールホルダーに対してはよくプレスがかかり、タイトな守備だ。中盤では複数の選手による組織的なプレッシングをしていた(ただし修正点は後述)。
特に岩渕と2トップを組んだFW菅澤はマーカーを背負いながら下がってクサビのボールを受け、いったんボールをはたいて、また上がるポストプレイが非常にいい。ボールがよく収まる。
また日本は最終ラインからのビルドアップ時には、両SBのどちらか一方が高い位置を取り3バック気味になる。だがあれをやるなら右SBは今大会不調の有吉より、若い清水のほうが適任のように見えた。ただしいずれにせよ、前半は悪くない内容だった。
前半30分。最終ラインのビルドアップからFW菅澤がポストになってつぶれ、中央にオーバーラップしてきた中島にパス。中島はカナダGKと1対1になりシュート体勢に入ったが、カナダのベッキーに足を払われ倒れてしまった。明らかなPKに見えた。何度も映像をくり返しチェックしたが、中島はスネを蹴られたようにも見えるし、ベッキーの足はボールに行っているようにも見える。微妙な判定だった。
また後半21分には途中出場した右SB清水から、フィールドを斜めに横切る素晴らしいサイドチェンジのボールが左前に開いたMF阪口に入った。だがヘディングで競った阪口はファウルを取られた。映像を見直すまでもなく、ファウルでもなんでもないプレイだった。中島の腕にボールが当たったシーンと合わせ、ハッキリしないジャッジだった。
課題は最終ラインから「どうボールを引き出すか?」
さて、この試合の修正点はどこか? まずなでしこは最終ラインからボールを引き出すのに苦労した。後ろ半分ではボールを回すが、どうしてもビルドアップの1本目の縦パスをカナダの選手に引っかけられる。で、CBからSBにボールが出るが、前をうかがったSBはリスクを避けてまたCBにバックパス。そしてCBが再びSBに出す、というサイクルをくり返していた。
ならば縦パスには、もっと速いボールスピードがほしい。それならカットされずにすむ。なでしこの感覚ならば、「シュートを打つ」ぐらいの気持ちでパスを出してちょうどいい。で、その強いボールをワントラップで次のプレイをするのに「ベストな場所」に置くワンタッチコントロールがほしい。もちろん最終ラインから縦パスを引き出すためのフリーランニング、速い動き出しとオフザボールの動きもいる。
またときには「グラウンダーのボールでビルドアップしよう」という発想を変えるのも方法だ。例えばCBの熊谷からポストのできるFWの菅澤までロングボールを入れ、菅澤がパスをダイレクトで胸トラップし味方にボールを落とせば、次の瞬間にはもうアタッキングサードでボールキープできる。「それは自分たちのサッカー」じゃない、などといわず、そういうチャレンジもどんどんしてほしい。
守備にはディアゴナーレとスカラトゥーラを
守備面では、1人が前に出てボールにプレスをかけ、他の選手がその斜め後ろについてカバーリングに備えるディアゴナーレとスカラトゥーラの動きをマスターしてほしい。
なでしこはボールホルダーに対し2人が行き、敵がドリブルで前進すると守備者2人が横に並んだまま平行にズルズル下がるケースが散見される。味方が引いてくるための時間を稼ぐ場合は別だが、そうでない場合は1人がはっきりボールに対しチャレンジすべきだ。
そのためには接触プレイを怖がらず、スタンディング・タックルで敵にカラダを当ててバランスを崩させる。例えばレスリングではセオリー化されているが、「相手がこの体勢のときには、ココに圧力をかければバランスを崩せる」というポイントがある。研究してみてほしい。
くり返しになるが、この試合はたった2つのミスを除けば今大会でいちばんいいデキだった。FW菅澤が交代し前でボールが収まらなくなったのが悔やまれるが、なでしこ最大のテーマである「相手に劣るフィジカル」の問題もそう感じさせなかった。
なでしこジャパンは、まだ実力の50%も出してない。伸びしろがとんでもなくでかい。ミスを減らし、持てる力をすべて出せればもっともっと勝てる。1人1人はすでに高い技術をもっているのだから、あとはグループ戦術で1+1を「2以上」にすること。そして守備のセオリーをマスターすることだ。
そうすればなでしこは、必ず世界一になれる。その日がくるのが楽しみだ。