すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【リオ五輪予選・勝因分析】「最弱」と呼ばれた谷間の世代はなぜ勝てたのか?

2016-02-02 00:13:55 | サッカー日本代表
ターンオーバーと後半勝負のゲームプランが生きた

 今回のU-23サッカー日本代表世代は、「勝てない」、「最弱」と呼ばれてきた。

 例えば2012年11月のAFC U-19選手権や、14年1月のAFC U-22選手権、14年9月のアジア大会では準々決勝の壁を破れなかった。昨年も国内ではJ2京都とJ3町田に負け、福岡大とさえ引き分けた。

 また昨年12月の中東遠征でも、イエメン、ウズベキスタン相手に点が取れずスコアレスドローに終わっている。ではなぜ、そんな「弱い」はずの彼らがあれほど劇的な勝ち方をし、五輪出場を決め、優勝できたのか?

セントラル方式にハマった心と体のコンディショニング

 まず手倉森監督は、最終予選が一発勝負のセントラル方式(集中開催)であることに対応した。すなわち長丁場を見越し、特定の選手に疲労が偏らないターンオーバー制を取った。これにより疲労度が全選手、平均的になり、誰が出ても力を発揮できる陣容が作れた。

 そして1試合の戦い方も、コンディションによる勝負に賭けた。すなわち前半は、DFがボールを持つとセーフティ・ファーストで前線にロングボールを放り込む。この戦法で前半を守ってしのぎ、相手の疲労が蓄積する後半に勝負をかけた。

 つまり日本はターンオーバーで選手のコンディションが平均的にいいため、相手が疲れてくる後半勝負に持ち込めば有利なはずだ、という戦略だ。

 そしてスピードのあるFW浅野という終盤向きの飛び道具が、この戦い方にぴったりハマった。試合の後半、疲れで足が萎えた相手DFラインにすれば、ヤマ場で途中出場してくる浅野はやっかいな存在だ。

 彼がライン裏を狙うことで、仮に浅野自身が得点できなくても敵DFの注意力は分散する。浅野を追って走らされ、ますます疲労がたまって集中力が切れる。こうして後半に勝負をかけた戦略と、浅野という手駒のマッチングが相乗効果を生んだ。

「誰にでもチャンスがある」とモチベーションが高まった

 ターンオーバー制には、付帯効果もあった。スタメンが日替わりになるため、「誰にでもチャンスがあるんだ!」と選手のモチベーションがグンと上がった。これでチームに一体感ができ、「やってやる」というメンタル面の強化につながった。

 この強いメンタルが得体の知れない底力を生み、「ここぞ」の場面で爆発的な決定力となって結実した。そして最終予選は一発勝負のセントラル方式であるため、1戦1戦、勝つことによってチームにみるみる勢いがつき、勝負の流れが勝ちへ勝ちへと結びついて行った。

 一方、フィニッシュの形も大きく影響した。日本はアタッキングサードで、サイドからのクロスを多用した。クロス攻撃は、ボールが受け手にさえ合えば一発で勝負が決まる。これが当たった。

 中盤をどう構成するか? なんて彼らには関係ない。放り込みでもなんでも、とにかくボールをアタッキングサードにねじ込み、あとはクロスで勝負だ。たとえ一発で決まらなくても、セカンドボールを拾ってアタッキングサードで2次攻撃ができる。この攻め方が見事に決まった。

原始的だが「最弱」の身の丈に合った戦略だ

 まとめると、彼らの勝因は大きく分けて以下の3点だと分析できる。

(1)フィジカル対策としてのターンオーバー採用。それによる選手のコンディションのよさを生かし、堅い守備を前提に前半は守り抜き、相手がバテる後半勝負のゲームプランが奏功した。

(2)ターンオーバー制によりモチベーションが上がり、一体感がわいてメンタルが強固になった。最終予選の前にはさっぱり点が取れず勝てなかったチームが無類の勝負強さを見せ、ここぞの場面で鮮やかにシュートを決めまくったのも、大会中にぐんぐん強化されたメンタルが原因だろう。

(3)フィニッシュは効率的なクロスを多用した。そのこぼれ球を決めたシュートもあった。ひとつ提案だが、クロスによるフィニッシュが極端に少ないA代表は少しは彼らを見習ったらどうか?

サッカー協会はこの勝ち方をマニュアル化すべき

 さてここから、日本が世界で勝つためのシナリオが読み取れる。(1)の疲労対策は何もターンオーバーによらなくても、日頃の走り込みや筋トレを強化することで持久力、フィジカルの強さを身につければ用が足りる。

 そして(2)については、心理学に基づくメンタル・トレーニングとモチベーターとしての監督のチーム作りで代用できる。つまり手倉森監督以外の監督でも、このノウハウに習えば同じことができる。また今回のU-23メンバーでなくても(つまりA代表でも)、同様の勝負強さやメンタルの強さを身につけられるはずだ。

 いや、もちろん別にそっくり同じことをやれというわけではない。例えばメンタル面など、部分的にいいところを取り入れるのは意義あることだ。日本サッカー界は今大会の勝因をロジカルに分析し、勝ち方の「見習うべき部分」をマニュアル化することによって今後に生かすべきだろう。

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