ドイツ行きへ王手をかける一発だった。中村がはたいたボールをワンフェイント入れて持ち替え、小笠原はルックアップした。マーカーは彼の左をオーバーラップして行くアタッカーをケアし、瞬間的に左を切った。そのためわずかにシュートコースが空いている。小笠原が振り抜いたボールは美しい軌道を描き、彼がほんの2秒前にイメージした通りゴール左隅へ吸い込まれていった──。
バーレーン戦はすべてがうまく回転した試合だった。いまの代表の最大の問題点は、メンタル面だ。そしてこのゲームで採用したシステムやチームが置かれた状況が、彼らの強い「気持ち」を引き出した。
1トップ2シャドーは、2列目がイヤでも前に飛び出さざるをえない形だ。柳沢のうしろに配置された中村と小笠原は、もともと「人を使うタイプ」の選手である。使われるタイプじゃない。そのためペルー戦のエントリーで指摘したように、「パスを出したら終わり」になりがちなのが彼らのアキレス腱だった。
だが1トップの下に置かれたために、「オレがやらなきゃ、やるヤツがいない」という意識が生まれた。ジーコはこのシステムを採ることにより、「おまえがやるんだぞ」てなメッセージを送ったことになる。これが彼らの気持ちを変えた。
象徴的だったのは、中村らを囮に使った小笠原の得点シーンだ。縦パスを受けた中村はダイレクトで小笠原にはたき、すぐに右前へ走った。リターンパスを受けるためだ。これも同じくペルー戦のエントリーで「日本にはこれが足りない」と指摘した基本中の基本、パス&ゴーである(中村はこの動きを今後も絶対に忘れないでほしい)。
一方、中村から横パスを受けた小笠原の左には、もうひとりのアタッカーが爆発的なランニングを見せてオーバーラップしてきた。小笠原の左右で前へ飛び出した中村らは、釣る動きをしたわけだ。特に中村にはバックラインの2~3人が反応しているから笑える。
場所はペナルティエリアのちょい外。バーレーン守備陣はシュートより、パスをケアした。中村たちの動きが彼らの意識を分散させ、そのぶんマークがやや甘くなった小笠原のシュートを生む遠因になったのだ。
「パスを受けるために走ろう」という受け手の気持ちと、「オレが決めるんだ」という小笠原の気持ち。いままでにない強いメンタルが生んだゴールだった。
また1トップの柳沢も、バックラインの裏を狙って精力的なダイアゴナルランを繰り返した。
彼の場合は存在自体が囮なのだが(笑)、それにしてもよく走った。相手ボールのときはチェイシングし、マイボールになったら前のスペースに走る。私は柳沢のひたむきな気持ちに心を打たれた。もう鳥肌ものだったよ。しかし柳沢をいきなり1トップに使うって、ジーコは私の原稿を読んだのか?(笑)
そして特筆すべきは、中田英の気持ちだ。とにかく玉際でねばるわ、ねばるわ。
マイボールのときしか動かない選手ってのはよくいるが、彼の場合はそんなのとは無縁だ。どっちのボールであろうが、常に必要な動きをする。特に疲労がたまった後半のドン詰まりあたりで、あんな動きはできないよ、ふつう。よっぽど強い気持ちがなけりゃ。
ひとことでいえば、中田英のそんな気持ちがチーム全体に乗り移り、全員でもぎ取った勝利だった。かつて、あの木村和司が「サッカーは気持ちだよ」と言っていたのを懐かしく思い出した。
このチームは「1対1で勝つ」とか、「玉際のねばり」とか、「勝ちたい気持ち」とか、もう、そういうきわめてプリミティブな部分で相手に競り勝つしかテがないのだろう。私はそんなものはプロとして当たり前の前提として、「そこから先」を見たいのだが致し方ない。
サッカーというゲームは実にカンタンだ。相手ボールになったら、とにかく敵のジャマをする。そしてマイボールのときには、敵のジャマをかいくぐってゴールすればいい。特に90年代以降はその「ジャマのしかた」や、「ジャマを無力化する方法」がとてもロジカルになっている。
だが、「気持ち」や「ねばり」は時としてそんなロジックを吹っ飛ばす力になる。「理屈抜きの気持ち」は人を感動させるし、だからこそ人々はフットボールに熱狂するのだ。
もしロジックではなく超人的な精神力を武器に本大会の決勝トーナメントへ行けるのなら、これはこれでリッパな「日本のサッカー」である。日本がアイルランドみたいなチームになるなら、想定外ではあるがもちろん賛成だ。彼らのひたむきさは、ホントに人を熱くさせる。
そうかあ。日本はアイルランドになるのかあ。
そう考えたらなんとなく、もう納得できそうな気になってきたよ、わしは。
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(追記)小笠原の左をオーバーラップした選手が映像では確認不能だったため曖昧です(6/5)
バーレーン戦はすべてがうまく回転した試合だった。いまの代表の最大の問題点は、メンタル面だ。そしてこのゲームで採用したシステムやチームが置かれた状況が、彼らの強い「気持ち」を引き出した。
1トップ2シャドーは、2列目がイヤでも前に飛び出さざるをえない形だ。柳沢のうしろに配置された中村と小笠原は、もともと「人を使うタイプ」の選手である。使われるタイプじゃない。そのためペルー戦のエントリーで指摘したように、「パスを出したら終わり」になりがちなのが彼らのアキレス腱だった。
だが1トップの下に置かれたために、「オレがやらなきゃ、やるヤツがいない」という意識が生まれた。ジーコはこのシステムを採ることにより、「おまえがやるんだぞ」てなメッセージを送ったことになる。これが彼らの気持ちを変えた。
象徴的だったのは、中村らを囮に使った小笠原の得点シーンだ。縦パスを受けた中村はダイレクトで小笠原にはたき、すぐに右前へ走った。リターンパスを受けるためだ。これも同じくペルー戦のエントリーで「日本にはこれが足りない」と指摘した基本中の基本、パス&ゴーである(中村はこの動きを今後も絶対に忘れないでほしい)。
一方、中村から横パスを受けた小笠原の左には、もうひとりのアタッカーが爆発的なランニングを見せてオーバーラップしてきた。小笠原の左右で前へ飛び出した中村らは、釣る動きをしたわけだ。特に中村にはバックラインの2~3人が反応しているから笑える。
場所はペナルティエリアのちょい外。バーレーン守備陣はシュートより、パスをケアした。中村たちの動きが彼らの意識を分散させ、そのぶんマークがやや甘くなった小笠原のシュートを生む遠因になったのだ。
「パスを受けるために走ろう」という受け手の気持ちと、「オレが決めるんだ」という小笠原の気持ち。いままでにない強いメンタルが生んだゴールだった。
また1トップの柳沢も、バックラインの裏を狙って精力的なダイアゴナルランを繰り返した。
彼の場合は存在自体が囮なのだが(笑)、それにしてもよく走った。相手ボールのときはチェイシングし、マイボールになったら前のスペースに走る。私は柳沢のひたむきな気持ちに心を打たれた。もう鳥肌ものだったよ。しかし柳沢をいきなり1トップに使うって、ジーコは私の原稿を読んだのか?(笑)
そして特筆すべきは、中田英の気持ちだ。とにかく玉際でねばるわ、ねばるわ。
マイボールのときしか動かない選手ってのはよくいるが、彼の場合はそんなのとは無縁だ。どっちのボールであろうが、常に必要な動きをする。特に疲労がたまった後半のドン詰まりあたりで、あんな動きはできないよ、ふつう。よっぽど強い気持ちがなけりゃ。
ひとことでいえば、中田英のそんな気持ちがチーム全体に乗り移り、全員でもぎ取った勝利だった。かつて、あの木村和司が「サッカーは気持ちだよ」と言っていたのを懐かしく思い出した。
このチームは「1対1で勝つ」とか、「玉際のねばり」とか、「勝ちたい気持ち」とか、もう、そういうきわめてプリミティブな部分で相手に競り勝つしかテがないのだろう。私はそんなものはプロとして当たり前の前提として、「そこから先」を見たいのだが致し方ない。
サッカーというゲームは実にカンタンだ。相手ボールになったら、とにかく敵のジャマをする。そしてマイボールのときには、敵のジャマをかいくぐってゴールすればいい。特に90年代以降はその「ジャマのしかた」や、「ジャマを無力化する方法」がとてもロジカルになっている。
だが、「気持ち」や「ねばり」は時としてそんなロジックを吹っ飛ばす力になる。「理屈抜きの気持ち」は人を感動させるし、だからこそ人々はフットボールに熱狂するのだ。
もしロジックではなく超人的な精神力を武器に本大会の決勝トーナメントへ行けるのなら、これはこれでリッパな「日本のサッカー」である。日本がアイルランドみたいなチームになるなら、想定外ではあるがもちろん賛成だ。彼らのひたむきさは、ホントに人を熱くさせる。
そうかあ。日本はアイルランドになるのかあ。
そう考えたらなんとなく、もう納得できそうな気になってきたよ、わしは。
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(追記)小笠原の左をオーバーラップした選手が映像では確認不能だったため曖昧です(6/5)