軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

田村正和さんとソヨゴ

2021-06-04 00:00:00 | 日記
 5月19日の新聞紙上で、俳優の田村正和さんが先月3日に亡くなっていたと次のように報じられた。

 「多くのテレビドラマで活躍した俳優の田村正和さんが先月3日、心不全のため東京都内の病院で亡くなりました。77歳でした。田村正和さんは京都で生まれ、父親は往年の大スター阪東妻三郎さん、兄の高廣さんと弟の亮さんも俳優という役者一家の中で育ちました。
 昭和36年に映画『永遠の人』で俳優として本格的にデビューし、その後、テレビドラマを中心に活躍して、『眠狂四郎』のような時代劇でのニヒルな剣客の役や、『うちの子にかぎって・・・』でのコミカルな教師役などで人気を集めました。
 ドラマ『古畑任三郎』シリーズでは、完全犯罪をもくろむ犯人を徐々に追い詰めていく刑事の役を演じて話題となりました。
 関係者によりますと、田村さんは平成30年に放送されたドラマ『眠狂四郎The Final』に出演したのを最後に仕事から離れていました。
 そして先月3日、心不全のため東京都内の病院で亡くなったということです。」

 新聞の記事では、このように報じられていたのだが、田村正和さんというと、私は「ソヨゴ」の木のことを思い浮かべる。

 軽井沢に転居することを決めて、先ず土地を探し始めた時、妻が、義父がいた頃から知っている不動産業者にもお願いしておこうということで、そのIさんにも声をかけてあったところ、間もなく我々の希望にほぼ合った土地が見つかった。

 ほぼ合っているというのは、この土地からは浅間山を直接見ることができないからであった。妻はかねて、浅間山の見えるところに、という希望を持っていたが、紹介された土地からは浅間山はちょうど離山の後ろに隠れてしまっている。

 Iさんいわく「浅間山が見えるということは、浅間おろしが吹くということでもあります」ということで、浅間山が見たくなったら、少し東西どちらかに散歩に出ることにして、妻は納得した様であった。

 建物の方は、こちらも義父の山荘管理でお世話になっているTさんから、3つの設計・建築事務所を紹介していただき、それぞれの事務所の技術面での特色を聞いたが、結果M建築設計事務所にお願いすることにした。Mさんは、自宅のある神奈川と軽井沢の現地事務所を行き来しながら仕事をしている方で、当時我々も鎌倉に住んでいた関係から、打ち合わせなどにも便利だと考えたからでもあった。

 建物の建設がある程度進んだ頃、庭に植える木を探し始めていて、土地探しでお世話になったIさんと話していたところ、「ソヨゴ」の木が常緑で、それほど大きくもならないのでいいですよと紹介された。

 私たちは二人ともそのソヨゴについては全く知らないと伝えると、生け垣にソヨゴを植えている別荘を知っているので、見に行きましょうということになり、早速その別荘を見せていただくことになった。

 車で案内された、南軽井沢にあるその別荘とは、「田村正和さん」の別荘であった。ここで見たソヨゴは別荘地の2辺の外周に沿って植えられていて、特にこれといった特徴があるわけではなく、別な場所で見ても、それと気が付かないような種であったが、Iさんの勧めに従うことにして、その後上田方面の森林組合で、樹高3mほどの手ごろな大きさのものを見つけて購入し、玄関わきに、紅サラサドウダンツツジとモミノキと共に植えている。

 自宅に植えてからは、軽井沢にはソヨゴの木が意外に多く植えられていることがわかった。散歩途中などでソヨゴに出会うとすぐにそれと判るようになったのである。ややまばらについている葉の縁が少し波打ったようになる特徴を覚えたからである。

 このソヨゴはIさんから聞いた通りおとなしい木で、移植してからもう7年になるが、特に目立って成長するでもなく、小さく白い花を咲かせ、秋にはやはり赤い小さな実を付ける。

 秋になると決まって庭にやってくる、ウラナミシジミという小型のチョウがいるが、このチョウがソヨゴの赤い実のそばに止まったので写真を撮ったことがあった。この時撮った写真の1枚は次のようで、「赤い実」と題して、元の勤務先のOB会主催の展覧会に出品したことがある。 


ソヨゴの赤い実とウラナミシジミ♀(2016.10.12 撮影)

 ソヨゴについてもう少し見ておくと、モチノキ科モチノキ属の常緑小高木ということで、「フクラシバ」の別名があるという。ソヨゴの語源は、風にそよ(戦)いで葉が特徴的な音を立てる様に由来するとされる。このことから漢字では「戦」または「冬青」、「具柄冬青」とも書く。私にはとても読めない字ばかりであるが、冬青は常緑樹全般に当てはまるので区別するために具柄冬青とも表記されるのだという。

 フクラシバの語源はおもしろく、葉を加熱すると内部で気化した水蒸気が漏出することができず、葉が音をたてて膨らみ破裂することから「膨らし葉」となったとされる。昔の人は身の回りの物事をいかによく観察していたかがわかる話である。

 更に年配者には懐かしいが、幹はそろばんの珠や櫛の材料に使われるという。共に成長が遅く、堅く緻密な材となる特徴を生かしている。

 さて、田村正和さんにもどるが、ソヨゴと田村正和さんとを結びつけるものは特にあるわけではない。田村さんの別荘の生け垣に植えられていたというだけである。

 今回、新聞の田村正和さんの訃報を目にし、「ソヨゴ」のことを思い浮かべたのであったが、私は散歩中などに逆にソヨゴに出会うと決まって田村正和さんを思い出していた。特にファンだったわけでもなく、彼の出演しているTVドラマを熱心に見たわけでもなかったのだが。

 しかし、独特の声質と雰囲気のある彼の演技は記憶に残っていて、今回の訃報に接してなぜかとても感慨深い思いにとらわれた。普段気にすることのなかった田村さんの年齢を新聞記事であらためて知り、そこに記されていた年齢が意外に私と近かったことが大きかったのかもしれない。

 テレビでは5月23日に早速、田村正和さんの追悼特別番組として、松本清張原作の「疑惑」が再放送された。これは2009年にテレビ朝日の開局50周年記念と、松本清張の生誕100周年を記念して放送されたものだという。

 妻と一緒にこの番組を見たが、田村正和さんは容疑者・白川球磨子の国選弁護人・佐原卓吉役であり、沢口靖子さんが白川球磨子役、室井滋さんが容疑者を追い詰める新聞記者・秋谷容子役であった。

 私は松本清張原作の映画が好きで、何枚かそれらのDVDを持っているが、中にこの「疑惑」が含まれている。1982年に公開されたもので、製作は松竹・霧プロダクション、監督は松本清張作品を多く手掛けた野村芳太郎氏である。

 映画の方では容疑者・白河(鬼塚)球磨子役は桃井かおりさん、岩下志麻さんが女性弁護士・佐原律子役、新聞記者・秋谷茂一役は柄本明さんが演じていて、映画より後に製作され、今回再放送されたテレビ版との比較では、球磨子を除いて、弁護士と新聞記者は男女が入れ替わっている。

 松本清張の原作では、新聞記者・秋谷に焦点が当てられているのだが、映画では容疑者・球磨子と女性弁護士・佐原の心理的関係を描いていた。一方、今回のテレビドラマでは田村正和さん演じる弁護士・佐原卓吉が主人公となり物語が展開しているということで、作品ごとに原作から離れた解釈が行われているようだ。

 2009年のテレビでの放送後、2011年から、この国選弁護人・佐原を主人公にして企画・製作された連続テレビドラマ「告発~国選弁護人」が放送され、田村正和さんが佐原役を演じていることからも、彼が「疑惑」で主人公として設定されていた意図が理解されるのである。

 尚、「疑惑」はこの2009年の作品の他にも4回テレビドラマ化されていて、3人の主要登場人物の配役は以下のとおりである。

 
松本清張原作「疑惑」の映画・テレビドラマ・舞台における登場人物と俳優

 今回の追悼特別番組を皮切りに、今後、田村正和さんの出演しているTVドラマが次々と各局でテレビ放送されるのかと思っていたが、どうもそう簡単にはいかない難しい事情があるようである。
  
 出演者には、著作権法で『著作隣接権』が認められているからだという。そのため、二次利用をするときには、各出演者に許諾を得ないといけない。最近の作品であれば、連絡先も比較的容易にわかるが、40~50年前の映画やドラマだと、出演者が多いため、既に芸能界から去った方もたくさんいるし、居場所を探すだけで一苦労するという。また、出演者に連絡がついても、再放送を拒否する事務所やタレントもいて、再放送を見送るケースも結構あるという。

 以前はテレビで10年前や20年前近くの作品が頻繁に再放送されていたのに、平成中期からはあまり見掛けなくなっているが、それはこのように、平成に入ってから著作権法の一部が改正され、権利者の許諾を必要とするようになったからだという。尚、『著作隣接権』は実演を行った時から70年間存続する。

 こうしたこともあって、田村正和さん出演のテレビドラマを見ることができるかどうか、難しい状況にあるというのである。

 私たちがソヨゴの見学に訪れた田村正和さんの別荘を、田村さんが利用していたのは僅かに2年ほどであったという話がある。もともと、普段は人前に姿を見せることが少なく、人前で食事姿を見せることがなかったという田村さんであるから、軽井沢に別荘があっても、どこかで偶然に出会う機会はなかったと思うが、今後、テレビで姿を見ることも難しいとなると残念な気もしてくる。
 
 謹んでご冥福をお祈りする。

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