ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

穴内川ダム

2021-12-04 10:00:00 | 高知県
2021年11月22日 穴内川ダム
 
穴内(あなない)川ダムは高知県香美市土佐山田町樫谷の一級河川吉野川水系穴内川にある四国電力(株)が管理する発電目的の中空重力式コンクリートダムです。
吉野川水系では1958年(昭和33年)に建設省(現国交省)、電源開発(株)、四国電力により『吉野川総合開発事業』が着手され、当ダム建設地点では当初建設省による多目的ダム建設が計画されました。
しかし関係者間の利害調整が難航したことで、早急な電源開発に迫られていた四国電力は同事業から離脱し、独自のダム建設にかじを切り1963年(昭和38年)に吉野川水系穴内川に穴内川ダムと繁藤堰堤を、国分川に休場ダムを建設します。
まず穴内川ダムを上部池、繁藤堰堤を下部池とする穴内川発電所(最大出力1万2500キロワット)で混合揚水式発電を行いその放流水はさらに繁藤堰堤から平山発電所(最大出力4万1500キロワット)を経たのち、流域変更して国分川の休場ダムに導水され、新開発電所(最大出力8700キロワット)でダム水路式発電を行い、計最大6万2700キロワットの電力を生み出します。
国分川への流域変更はより大きな有効落差を得るため、また穴内川発電所で混合揚水式発電を採用したのは、豊水期に揚水し渇水期に発電放流を増やすことで河川流量の季節変動を平準化させ平山発電所での発電効率を向上させるためで、これらは先に完成した仁淀川分水発電事業とほぼ同じシステムです。
加えて国分川下流域は高知平野最大の穀倉地帯となっており流域変更により吉野川水系の水を高知平野の灌漑用水として有効利用することが可能となりました。
 
穴内川ダムは四国電力が先に完成させた大森川ダム同様、中空重力式コンクリートダムですが、そのフォルムは他の中空ダムと一線を隔す特徴的なものとなっています。
まず目につくのは左岸から伸びるジャンプ台式洪水吐で中空ダムで唯一洪水吐斜水路を擁しています。
また提体下流面スロープも上段で傾斜角度が変わる独特の形状。
さらにクレストラジアルゲートは日本で唯一の単脚ラジアルゲート、取水ゲートも希少なキャタピラゲートとダム愛好家にとっては見所満載のダムとなっており、日本ダム協会により『日本100ダム』にも選ばれています。
 
下流から
左岸にジャンプ台を備えた洪水吐斜水路が伸びるダムは、中空ダムのみならず重力式ダムでもほとんど見かけません。
ジャンプ台の下では放流ゲートが口をあけています。

 
ゲートをズームアップ
日本で唯一の単脚ラジアルゲート、ゲートの前面にトンカチがついているよう。

 
左岸から超広角で。
上段で傾斜角度を変えるこれまた特異なスロープ
超広角のデフォルメ効果で異形のダムの特徴が一段と誇張されます。

整然と並ぶタコ足スリット
12本のタコ足がずらっと並ぶ様は壮観。


ダムサイトの説明板。

水利使用標識。


四国電力ではおなじみ、○○堰堤と記されたプレート。


対岸の取水塔と管理事務所。
今は遠隔操作のため、職員は常駐していません。

左岸アバットメントを支えるバットレス
こちらも否が応でも目につきます。

 
地山を利用したジャンプ台式洪水吐と減勢工
ジャンプ台の下から一本導流壁が伸びる一方、左岸がは強固なアバットメント。


日本唯一、単脚のラジアルゲート。


総貯水容量4626万立米。
直接的な発電は穴内川発電所での混合揚水発電ですが、メインは最大出力を誇る平山発電所の発電効率の向上、さらに間接的に国分川流域農地への補給も賄っています。


右岸から
堤体にはHGダム特有の丸穴が並びます。


まるでバットレスのような狭い堤頂。



ずらっと並ぶタコ足スリットはもはや芸術品。

取水ゲートはこれまた希少なキャタピラゲート。


訪問前から楽しみにしていた穴内川ダム。
雨後の澄んだ空気の中で見た異形の中空ダムは怪異ともいえるような独特な存在感を十二分に発揮していました。
 
(追記)
穴内川ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2317 穴内川ダム(1753) 
高知県香美市土佐山田町樫谷 
吉野川水系穴内川 
 
HG 
66.6メートル 
251.9メートル 
46260千㎥/43300千㎥ 
四国電力(株) 
1963年 
◎治水協定が締結されたダム 


コメントを投稿