ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

読書ダム

2024-08-05 20:00:00 | 長野県
2015年11月22日 読書ダム
2024年 5月26日
 
読書(よみかき)ダムは長野県木曽郡大桑村野尻の一級河川木曽川本流にある関西電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
戦前の5大電力の一つで福沢桃介率いる大同電力(株)は急流かつ水量豊富な木曽川に着目し1920年代以降、次々と発電所を建設します。
読書発電所もその一つで1923年(大正12年)に運用が開始され、当初は最大4万700キロワットの水路式発電を行っていました。
木曽川流域の発電施設は電力国家管理政策による日本発送電(株)の接収を経て1951年(昭和26年)の電気事業再編成で関西電力が事業継承します。
同社は戦後の電力不足に対応するため各所で活発な電源開発を進めますが、とりわけ包蔵水力豊富な木曽川水系では既設発電施設の再開発や新規電源開発が積極的に展開されました。
その一環として1960年(昭和35年)に完成したのが読書ダムで、その完成により取水量が大幅アップした読書発電所では発電機が増設され発電能力は従来の2倍以上となる最大11万7100キロワットに増強されました。
2011年(平成23年)には読書ダムの河川維持放流を利用した大桑野尻発電所(最大出力490キロワット)が運用を開始しますが、同発電所は同社として河川維持放流を利用した初の小水力発電所となります。
また読書発電所は大正期の発電所の形態をほぼ完全に残す貴重な建設物として1994年(平成6年)に稼働中の発電所としては初めて重要文化財の指定を受けたほか、Bランクの近代土木遺産に選定されています。

読書ダム構内は関係者以外立入り禁止ですが、左岸ダム下流側から堤体を眺めることができます。
堤頂長293.8メートルの過半は左岸段丘上に伸び、見えている洪水吐はダムの一端に過ぎません。

 
洪水吐は関電ブラックのラジアルゲート5門を装備、左岸側(向かって右手)1門の減勢工のみ導流壁で隔てられています。


扶壁、下流側の鋼板に目が行きます。
どういう役割なんでしょう? 


左岸から
堤体越しに延びる水管は後付けの河川維持放流設備
2011年(平成23年)には維持放流を利用した大桑野尻発電所が新設されました。

 
大桑野尻発電所をズームアップ
関西電力としては初の河川維持放流を活用した小水力発電所となります。


さらに引いた位置からダム全景を眺めます。
上記のように堤頂長293.8メートルの過半は左岸段丘上に伸び、洪水吐部分と段丘部の境界で堤体は『く』の字に折れています。

 
屈曲部をズームアップ
下流側に突き出るように折れておりいわゆる『カド』になります。
対岸には読書発電所への取水ゲートが2門あります。

 
大桑野尻発電所の竣工記念碑。

 
ダムの右岸に移動しますが、構内は立入り禁止のためフェンス越しの見学。
読書発電所への取水ゲートが2門。


上流面。


後付けの河川維持放流用取水工。


ダムの下流約8キロにある読書発電所。
こちらは1923年(大正12年)運用開始の1~3号機建屋で現役の発電所としては初めて重要文化財に指定されました。


円形の窓など当時ヨーロッパで流行していたアールデコが多用され、同様のデザインは桃山発電所や大井ダムでも踏襲されます。


重要文化財指定を受けた読書発電所の説明板。


1923年(大正12年)の読書発電所竣工記念碑
碑文には『流水有方能出世』(りゅうすいほうありよくよにいず)とあります。
これは『流水は方法によって電気にすることができ、世の中の文明を開くことができる』 との意(出典 関西電力ホームページ)。


(追記)
読書ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

1012 読書ダム(0059)
長野県木曽郡大桑村野尻
木曽川水系木曽川
32.1メートル
293.8メートル
4358㎥/2677㎥
関西電力(株)
1960年
◎治水協定が締結されたダム