家待・変そして因幡へ編（13）いや重（し）け吉事（よごと）

【掲載日：平成24年1月13日】

新あらたしき　年の始めの　初春の
　　　　　　　　今日けふ降る雪の　いや重しけ吉事よごと



明けて　　天平宝字三年（759）正月
昨夜ゆうべからの雪が　見事に積もった
新春の朝日に　映はえている
家持は　憂鬱ゆううつであった

（　もう我々の時代は終わったのか
大伴　はこの国では
用　のない氏族に成り下がったのか
　金村・狭手彦さでひこ以来の
もの　のふの大伴は
どこ　へ行ったのか
　鄙ひなの国守こくしゅごときに　留まってなるものか）

新あらたしき春　迎えたというに
出て　くるのは　ぐちばかり

憂憤ゆうふんを押し殺して　
新年　の朝賀に臨む
賀を済ませての宴うたげ
郡司ぐんじの面々が居並ぶ
歌詠よみ国守　家持の計はからい
宴　は　歌会で始まる

それぞれ　が
旧年　の内に精進した
我　れこそはを披露する
いずれ　の歌も
新年の迎えを寿ことほぐものだ
朗々　たる歌声の響くなか
家持　は推敲を重ねていた
順は巡めぐり
最後に　国守である家持が詠うたう
列する　人々は
緊張のうちに耳をそば立だてる

新あらたしき　年の始めの　初春の　今日けふ降る雪の　いや重しけ吉事よごと
《新年しんねんと　立春はつはる重なり　雪までも　こんな好ええこと　ますます積もれ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―（巻二十・四五一六）

年始　に立春の重なるめでたさ　
新雪　の清らかさ
降る　雪を思わせる「の」の繰り返し
ますます積み重なれと吉事よごとの寿ぎ
座　に
感嘆　のどよめきが静かに広がった

ひとり家持は　鬱然うつぜんたる思いでいた
（あらまほし吉事よごと　か・・・）

数々の　歌停止ちょうじ
その時々　訳わけ無しとしないが
つい　に　家持の歌作り
因幡の雪に　埋うずもれる　

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