【掲載日:平成25年12月3日】
娘子らが 績み麻のたたり 打ち麻懸け うむ時なしに 恋ひ渡るかも
その気ない児に 惚れたが因果
逢えもせんのに 面影浮かぶ
浮かぶ面影 思いは止まず
甲斐もないのに 諦め出来ん
橡の 一重の衣 うらもなく あるらむ子ゆゑ 恋ひ渡るかも
《一重衣 裏無い衣や その気ない 児にどしたんか わし恋してる》【衣に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・二九六八)
(うら=心 うらもなく=その気がない)
水茎の 岡の葛葉を 吹きかへし 面知る子らが 見えぬころかも
《顔だけを 偉うはっきり 覚えてる あの児このごろ 一寸見掛けんで》【葛に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇六八)
(水茎の~吹き返し=白い葉裏をはっきり見せて→面知る)(顔見るだけで交渉なし=片思い)
雷のごと 聞こゆる滝の 白波の 面知る君が 見えぬこのころ
《顔だけを 偉うはっきり 覚えてる あの人一寸 ここ見掛けんで》【滝に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇一五)
(雷のごと~白波の=白くはっきり→面知る)
相思はず あるものをかも 菅の根の ねもころごろに 我が思へるらむ
《思うても くれへんらしに 菅の根の 懇ろずっと うち思とんや》【菅に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇五四)
天雲の たゆたひやすき 心あらば 我れをな頼めそ 待たば苦しも
《雲の様な 頼りない気で 居るんなら その気にさしな 待つのん辛い》【雲に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇三一)
娘子らが 績み麻のたたり 打ち麻懸け うむ時なしに 恋ひ渡るかも
《娘らが 麻糸紡ぎ撚る 績む違うが 倦まんと(懲りんと)うちは あんた思てる》
【麻に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・二九九〇)
(績み麻=麻糸を紡ぎ撚る→倦む<飽きる>)(たたり=糸巻き道具)
玉の緒を 片緒に縒りて 緒を弱み 乱るる時に 恋ひずあらめやも
《弱い緒の 玉乱れ散る 片思いの 心乱れて 焦がれ募るわ》【玉に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇八一)
波の共 靡く玉藻の 片思に 我が思ふ人の 言の繁けく
《こっちだけ うちが秘かに 焦がれてる あの人悪噂 良う聞くのんや》【藻に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇七八)
物思ふと 寝ねず起きたる 朝明には わびて鳴くなり 庭つ鳥さへ
《思案して 侘し寝られん 夜明けには 鳴く鶏声も 侘し聞こえる》【鳥に寄せて】
―作者未詳―(巻十二・三〇九四)