古今相聞往来（下）編（11）言ふは誰(た)が言（こと）

【掲載日：平成25年6月21日】

悶々もんもん　片恋かたこい辛つらい
せめて見て欲し　窶やつれの姿
一人憧あこがれ　姿を見ても
なぜにその手が　取れんと嘆く
　　
明日あすの日は　その門かど行かむ　出いでて見よ　恋ひたる姿　あまた著しるけむ
《良よう見てや　明日あした門口かどぐち　行くよって　恋こい窶やつれした　憐あわれなわしを》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九四八）
　　　
相あひ思はず　君はいませど　片恋かたこひに　我あれはぞ恋ふる　君が姿に
《あんたには　その気ないのに　片思かたもいで　あんた姿に　うち惚ほれてんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九三三）
　　　
あぢさはふ　目は飽あかざらね　たづさはり　言こととはなくも　苦しくありけり
《始終しょっちゅうに　お目に掛かるが　手ぇ繋つなぎ　言葉交かわせん　偉えろう辛つらいで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九三四）

人妻何故なぜか　魅力みりょくに見える
男怖々こわごわ　近づき誘う
受けた人妻　やんわり避ける
あり相そその気に　男は焦じれる

他国ひとくにに　よばひに行きて　大刀たちが緒をも　いまだ解とかねば　さ夜よぞ明けにける
《よその郷さと　夜這よばいに行って　まだ大刀たちも　外はずさん云ゆうに　夜よぉ明けて仕舞もた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九〇六）
　　　
おほろかに　我れし思はば　　人妻に　ありといふ妹に　恋ひつつあらめや
《良え加減かげんに　思うてるなら　人妻の　あんたにわしが　焦こがれるもんか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九〇九）
　　　
人妻に　言ふは誰たが言こと　さ衣ごろもの　この紐ひも解とけと　言ふは誰が言こと
《何言ゆんや　人妻向むこて　さあ早う　この紐ひも解とけて　何なんちゅうことを》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二八六六）
　　　
緑児みどりごの　ためこそ乳母おもは　求むと言へ　乳飲ちのめや君が　乳母おも求むらむ
《乳母うば欲ほしん　赤ん坊ぼためや　あんたまだ　乳ちち飲のむ言ゆんか　乳母うば欲ほしなんて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九二五）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　乳母みたいな私を　<年下男の言い寄り>）
　　
悔くやしくも　老おいにけるかも　我が背子せこが　求むる乳母おもに　行かましものを
《あんた言ゆう　乳母うばに行きたい　思たけど　ちょっと悔くやしな　年取り過ぎた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九二六）
　　

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