【掲載日:平成23年9月9日】
秋の花 種々にありと 色毎に
見し明むる 今日の貴さ
家持 越を発ち 京に向かいし折にも
期待に 胸膨らませ
同様の お召応え歌を 用意していた
蜻蛉島 大和の国を 天雲に 磐船浮べ 艫に舳に 真櫂繁貫き い漕ぎつつ 国見し為して
《蜻蛉飛び 実り豊かな 大和国 空に磐船 浮かべられ 舳先と艫に 櫂付けて 漕いで国見を しなされて》
天降り坐し 掃ひ平らげ 千代重ね いや継ぎ継ぎに 知らし来る
《地上降りられ 賊懲らし 千代の長きに この国を お治めされた 天子御子》
天の日嗣と 神ながら 我が大君の 天の下 治め賜へば
《その後継ぎの 天皇 天下治めを なされるに》
物部の 八十伴の男を 撫で賜ひ 斉へ賜ひ 食す国も 四方の人をも 遣さはず 恵み賜へば 古昔ゆ なかりし瑞 度まねく 申し賜ひぬ
《仕え宮人 愛しみ 政治をば 安定められ 民に恵みを 与えられ これまでに無い 瑞祥が 幾度とも無う 報告された》
手抱きて 事無き御代と 天地 日月とともに 万代に 記し継がむぞ
《平安無事な 時代やと 天地日月 有る限り 記し遺すぞ 末長に》
やすみしし 我が大君 秋の花 しが色々に 見し賜ひ 明め賜ひ 酒宴 栄ゆる今日の あやに貴さ
《その天皇が 出まされ 秋の花々 彩りを ご覧なられて 安らがれ 酒の宴も 賑やかな 今日のこの日は 貴いことよ》
―大伴家持―(巻十九・四二五四)
秋の花 種々にありと 色毎に 見し明むる 今日の貴さ
《秋の花 どの花見ても 心映え 安らかされる 今日の貴さ》
―大伴家持―(巻十九・四二五五)
そして
頼むは 橘諸兄さま と
参内の折 または 宴呼ばれしに備えていた
古昔に 君し三代経て 仕へけり 我が大主は 七代申さね
《その昔 三代仕えの 方居ます 橘卿七代 お仕えなされ》
―大伴家持―(巻十九・四二五六)
(三代仕え=武内宿禰ら)
政治情勢 悪化と不利の最中
宮廷現状 未だ絶望せずの 家持が判断
果たして 適や 不適や