【掲載日:平成22年10月19日】
立ちかはり 古き都と なりぬれば
道の芝草 長く生ひにけり
元明天皇 明日香を離れ 唐の都に 負けじと造る
平城の都は 咲く花匂う 永遠の都と 思いしものを
乱が呼んだか 都の移り 政略故か 帝気まぐれか
やすみしし わご大君の 高敷かす 日本の国は
皇祖の 神の御代より 敷きませる 国にしあれば
《天皇の 治めなされる 大和国 ご先祖神の 御代からも ずっと治めて 来た国や》
生れまさむ 御子の継ぎ継ぎ 天の下 知らしまさむと
八百万 千年をかねて 定めけむ 平城の京師は
《お生まれなさる 御子さんが 次々天下 支配され
八百年も 千年も 続く様にした 平城都は》
かぎろひの 春にしなれば 春日山 三笠の野辺に
桜花 木の晩ごもり 貌鳥は 間なく数鳴く
《春になったら 春日山 三笠の野辺の
桜花 そこの木陰で 郭公鳥 休むこと無う 鳴き続け》
露霜の 秋さり来れば 射駒山 飛火が岳に
萩の枝を しがらみ散らし さ男鹿は 妻呼び響む
《秋が来たなら 生駒山 飛火の丘に
萩枝を 絡み散らして 牡鹿が 連れ呼ぶ声を 響かせる》
山見れば 山も見が欲し 里見れば 里も住みよし
もののふの 八十伴の男の うち延へて 思へりしくは
天地の 寄り合ひの限 万代に 栄え行かむと
思へりし 大宮すらを 恃めりし 奈良の都を
《山を見たなら 良え眺め 里見てみたら 住み良うて
仕える人は 誰もかも 天と地ぃとが 一緒なり
くっ付く日まで 栄えると 思うておった 大宮や 心頼りの 奈良都や》
新世の 事にしあれば 大君の 引のまにまに
春花の うつろひ易り 群鳥の 朝立ちゆけば
さす竹の 大宮人の 踏み平し 通ひし道は
馬も行かず 人も往かねば 荒れにけるかも
《そやのに時代 打ち変わり 天皇さんの お指図で
花散るみたい 都移り 鳥飛ぶように 人影消えて
仕えてた人 通ってた 道には馬も 通らんで 人も行かんで 荒れてしもてる》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇四七〉
立ちかはり 古き都と なりぬれば 道の芝草 長く生ひにけり
《世の中が 変わり古都 なって仕舞て 道の雑草 えらい伸びとる》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇四八〉
なつきにし 奈良の都の 荒れゆけば 出で立つごとに 嘆きしまさる
《親しんだ 奈良の都が 荒れてくで ここ来る度 嘆きが募る》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇四九〉