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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・青春編(二)(20)一つ松

2010年10月01日 | 家待・青春編(二)内舎人青雲
【掲載日:平成22年11月12日】

一つ松 幾代か経ぬる
       吹く風の 声のきよきは 年深みかも



「おお 恭仁くにみやこが一望だ」
うたげは この一本松の場所が良い」
天平十六年〈744〉新春 
展望良い丘に うたげは張られた

聖武帝が 東国行幸みゆきたれ
諸国を巡り 
ここ恭仁京くにきょうに都され 足掛け五年を数える

帝の御心みこころは 如何いかがであったろうか
「咲く花のにおうがごとき」 
たたえられた平城ならの都
宮廷は爛熟らんじゅく頽廃たいはいの度を加え
貴族の権謀けんぼう術数じゅっすうは極に向かい
社会不安は増すばかり 
加えて 
悪疫あくえき流行 
藤原氏四兄弟の死  
藤原広嗣ひろつぐ九州挙兵
乱平定待たずの行幸みゆき
不安募る平城帝都には  とても戻れぬと
山青く水清い  この地に留まられた・・・か

市原王おおきみ 
 この眺め  新たな年にふさわしいではありませぬか
 ぜひともの  一首を」
家持は 市原王いちはらおうに 歌を請うた

一つ松 幾代か経ぬる 吹く風の 声のきよきは 年深みかも
《風の音 爽やかなんも そのはずや この一本松まつのきの 年輪とし見た分かる》
                         ―市原王いちはらのおおきみ―〈巻六・一〇四二〉

「これは お見事な寿ことほぎ」
「では わたしも みやこ永遠とわを願って」

玉きはる 命は知らず 松が枝を 結ぶ心は 長くとそ思ふ
《限りある 人の命は 分からんが 枝結ぶんは 永遠とわ思うから》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〈巻六・一〇四三〉

たび重なる 紫香楽しがらき離宮への行幸みゆき
昨年十月には 紫香楽の地での大仏造立ぞうりゅうみことのり
追うかの様に  
十二月 恭仁造作ぞうさく停止の令
恭仁宮の前途に  暗雲立ち込める