【掲載日:平成22年6月25日】
託馬野に 生ふる紫草 衣に染め
いまだ着ずして 色に出でにけり
ついに
家持 安らぎの恋を得た
探しに探し 待ちに待った
理想の相手
笠郎女
容貌は 十人並みだが
賢く抑えた 利発さ
教養備えた 歌詠み才気
一緒して 気疲れが無い
まさに 波長が合うとは このこと
水鳥の 鴨の羽色の 春山の おほつかなくも 思ほゆるかも
《春の山 ぼっと霞んで 見えん様に あんたの気持ち よう分からへん》
―笠郎女―〈巻八・一四五一〉
朝ごとに 我が見る屋戸の 瞿麦の 花にも君は ありこせぬかも
《毎朝に 見る撫子の 花みたい あんた毎日 見たいて思う》
―笠郎女―〈巻八・一六一六〉
朝霧の おほに相見し 人ゆゑに 命死ぬべく 恋ひわたるかも
《霧みたい 顔朧しか 見てへんに なんでこんなに 恋しいのやろ》
―笠郎女―〈巻四・五九九〉
皆人を 寝よとの鐘は 打つなれど 君をし思へば 寝ねかてぬかも
《皆みな 早よ寝と鐘は 鳴るけども あんた思たら 寝られへんがな》
―笠郎女―〈巻四・六〇七〉
託馬野に 生ふる紫草 衣に染め いまだ着ずして 色に出でにけり
《託馬野に 生えてる紫草で 染めた服 着てもせんのに 見られてしもた
〈あんたとは 心を染めた だけやのに 逢わへんうちに 知られてしもた〉》
―笠郎女―〈巻三・三九五〉
陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを
《あんたには 暫く逢うて ないけども 面影浮かび うち見えてるで》
―笠郎女―〈巻三・三九六〉
奥山の 岩本菅を 根深めて 結びし心 忘れかねつも
《忘れへん あんな深うに 誓たんや あんたの心 うち忘れへん》
―笠郎女―〈巻三・三九七〉
我が形見 見つつ思はせ あらたまの 年の緒長く 我れも思はむ
《思ててや うちの身代わり 見てながら うちもずうっと 思てるさかい》
―笠郎女―〈巻四・五八七〉
家持は 満ち足りた通いに 勤しんでいた