【掲載日:平成22年6月15日】
剣太刀 名の惜しけくも 我れはなし
君に逢はずて 年の経ぬれば
「おお 旅人殿の若い時に 生き写し
よくぞ この婆を 訪ねてこられた」
相好を崩す 丹生女王
旅人若年の 相聞相手
「なになに 女王に類する 乙女じゃと
これは これは 血は争えぬ
口添えを せぬではないが
合う合わぬは お互いしだい
誘いに乗せるは 腕しだい
よいかな 家持殿
首尾の責めは 負わぬぞよ」
坂上郎女の 咎め立てに反発
しからば 美味なる身分の御方と 誼を通じ
鼻明かそうとの 魂胆
物思ふと 人に見えじと なまじひに 常に思へり ありぞかねつる
《物思い 知られんとこと 無理をして 思い悩むん ほんまに辛い》
―山口女王―〈巻四・六一三〉
葦辺より 満ち来る潮の いや増しに 思へか君が 忘れかねつる
《潮満ちる みたいに慕情 こみあげて あんたのことが 忘られへんよ》
―山口女王―〈巻四・六一七〉
秋萩に 置きたる露の 風吹きて 落つる涙は 留めかねつも
《風吹いて 萩の玉露 散るみたい うちの涙は 止められへんわ》
―山口女王―〈巻八・一六一七〉
相思はぬ 人をやもとな 白栲の 袖漬つまでに ねのみし泣くも
《片思い 分かってんのに 思い詰め 袖びしょ濡れに なるまで泣くよ》
―山口女王―〈巻四・六一四〉
我が背子は 相思はずとも 敷栲の 君が枕は 夢に見えこそ
《あんたはん 思ててくれん 思うけど せめて夢でも 出てくれへんか》
―山口女王―〈巻四・六一五〉
剣太刀 名の惜しけくも 我れはなし 君に逢はずて 年の経ぬれば
《うちなんか なに言われても もう良えわ 逢えん日長う 続いたよって》
―山口女王―〈巻四・六一六〉
〈いやはや 高貴なお方は 育ちが良すぎる
変に なよなよばかりか すぐに涙じゃ〉
恋の狩人 家持
渉猟の旅は 続く