はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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自由書き込み型の百科辞(事)典として、瞬く間に周知の存在となったWikipedia。情報が正しいことの保証がないだけでなく、一般に認められていない個人的見解・思い入れの書き込みに使われるなどの問題もしばしば指摘される。
しかし、普通の本には載っていない事柄があっさり出ていることも多い。その種の掘り出し物的な情報の場合、しばしば「『独自研究』に基づいた記述が含まれているおそれがあります。」旨の警告が付いていたりするが、疑い深く見ることを忘れなければ、貴重なヒントが得られる。

さて、(そのような例として)見ていただきたい項目"手配師":
手配師 - Wikipedia

「置屋」や「沖仲士の顔役」と同類とも言えるこの用語、裏社会に近い特殊業界のことだと思った人もいるだろう。そのとおり、1986年に労働者派遣法が施行される以前はまさにそのような特殊業界を指す言葉だった。その労働者派遣法は、1996年ぐらいから規制が緩和される方向で段階的に改定され、特に1999-2004の間に大幅自由化されるという経緯を受けて(主な改正の経緯)、いわゆる資本系派遣会社が堂々・続々と参入する状況に一変していった。

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今日ではほとんどの業界の大企業が、子会社としての派遣会社をもっている。検索すればいくらでも出てくるように、トヨタキヤノン松下竹中工務店大丸・松坂屋東京電力NTTも 、、。

どうしてこんなことが常態化してしまったかといえば、派遣労働という制度を利用して、会社を分ける方が、企業グループ全体では儲かる(余分の管理職ポストができることまで含め)からだ。しかし、そこで儲かるというのは、商品の価値が増して売り上げが増えることとは全然違う。賞与・保険費用・福利厚生などという、従来の労働者に与えられていたコストが削減されて、その分が2つの会社の金庫と新子会社役員の懐に移されたに過ぎないのだ(親会社が100%株主なので投資家への配当も無い)。そして、綺麗なホームページのイメージとは裏腹に、単純作業の派遣を仕切るというのは、上に見た「手配師」の仕事そのものだ。人の弱みに付け込んでサヤを稼ぐ影の仕事の側面が拭えない。

平たく言えば、要するに日本の大手企業は、こぞって「手配師(ピンはね業)」の手法と形態を採り入れることで、支払賃金の削減と管理職のポストの確保に成功した、、ということだ。日本の優良企業は特にこの十数年ほどの間に、変容してしまった。社会的な格を下げたと言ってもいい。ショッキングだが、認めざるを得ない現実だ。

ただし、最大の利益を目指すことが営利企業の第一義的な目標であるから、企業が道徳的でなくなったなどと文句を言うつもりも無い。派遣事業の規制緩和の政策が誤っていたし、さらにその根本として、市場原理を絶対・万能視するのみならず、バブルのつけをひたすら弱者に押しつけることで問題解決しようとした[過去記事]、日本型「新自由主義」の悲惨な末路として直視し、政策の転換を求める以外にない。

もはや一刻も早く、非正規雇用を増やすことで総賃金を抑え、さらに法人税を下げることで企業業績を守るという、日本経済の敗北宣言とも言えるような、愚かな方策から離れるべきだ。2002年から最近までの"戦後最長の好景気"のお陰で、今や大手企業には十二分の資金がある(例えばSAFETY JAPAN(日経BP)の記事/森永卓郎)。これを、一般国民の所得の上昇と国内雇用の改善にストレートに反映させることこそが経済政策の焦眉の課題であるはずだ。

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〔参考リンク〕(今回の投稿のきっかけとなった情報源)

ニュース
日雇い派遣原則禁止 厚労相表明 秋に法改正 /ジョブサーチ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


関連して、”ハローワーク(公共職業安定所)の民営化を進めるべし”なる旨の諮問結果が出され、市場化テストが動き出している件。
厚生労働省:生涯職業能力開発促進センターにおける職業訓練事業の市場化テスト(モデル事業)の継続実施について
内閣府 規制改革・民間開放推進会議 - 市場化テスト関連公表資料

〔関連付記〕
基本的人権や労働運動の概念を取り入れた近代民主国家の形態は、「手配師」などの裏の社会構造を歴史的に脈々と継承してきた人間社会が、様々な失敗・思慮・反省の末にようやく獲得したものだ。決然と、自信をもって、この公共の役目を守り機能させていく意志を発揮しつづけないと、人間社会は、近代民主社会から脆くも後退してしまう危険性を何時だって抱えている。
このことを、お経のように「民営化」と唱える新自由主義の信奉者達は、どのように理解しているのだろうか?(「前近代的な階層隔離社会をつくろうとしているんだ.」と開き直るのだろうか、、)

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〔補〕
(ちょっと不自然にも見える)Wikipediaのことから書き始めた理由は、その"手配師"の項目の中ほどに書かれている、小泉元総理の曾祖父時代の家業に関する記述を見つけたため。以前に書いた 「ねたむ風潮を慎め」という言葉の怪 へのヒントを感じたことによる。

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