はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

〔コメント数の数字クリックで書き込みができます〕
 



教育基本法案をめぐる国会の動きは、ついに昨日15日、与党単独による委員会強行採決に至ってしまった。

asahi.com: 教育基本法改正案を単独採決 衆院特別委 - 教育
日本教育法学会教育基本法研究特別委員会のページ

朝日新聞の(一面)記事の最後の方には以下のような短い記述がある。

『教育基本法改正案は(中略)現行法にはない「公共の精神」や「国を愛する態度」などを教育の目標に盛り込んでいる。』

こんな記述を見れば、(改定案を読んでいない人は)誰でも、今回の法案がしごく真っ当なもので、批判する方がおかしいように思うだろう。この新聞社は、与党を助けるような世論誘導をしたいのだろうか?一体何をやっているのか。

この新聞社が、意図的に誘導的報道をしているのか、あるいは教育基本法案の本質や提出側の意図を理解できていないのかは定かでないが、一般の人々の関心が薄い中を突いて、性急・強引に基本法の全面改訂が為されようとしている重大時の報道としては、あまりにも不適切でお粗末で低レベルの記述である。

この法案の本質を知るためには、よく引合いに出される『我が国と郷土を愛するとともに』のところを見ていてはだめなのだ(この部分は、論点を核心から逸らすための"おとり"である.)。法案の本質、すなわち提出側の意図は、第五条、十六条、十七条を通して観たときに、浮かび上がってくる。以下にこの部分を並べて掲げる。これを見れば、明らかに、義務教育への中央政府と政治の直裁的な関与を宣言し、法的に根拠づけるという意味合いを読み取ることができる。

――――――
(義務教育)第五条
(1)国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

(2)義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする

(3)国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。

(4)国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
――――――
(教育行政) 第十六条
(1)教育は、不当な支配に服することなく、この法律および他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担および相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。

(2)国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない

(3)地方公共団体は、当該地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない。

(4)国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。
――――――
(教育振興基本計画)第十七条
(1)政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針および講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。

(2)地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない
――――――

何のことはない。要するに役人と保守派政治家が一緒になって、教育を統制する権限を強化したいと思う欲望を叶えようとしているだけの法案なのだ。基本法の尊厳と価値を落とすだけの、非常に軽薄な改定案であることが一目瞭然だ。

今まで、さんざん学習指導要領をいじくり回し、教育現場を混乱・疲弊させてきた文科省自身の責任をまるきり忘れて、このような低級な法案を作成するなどという厚顔なことがよくできるものだと思う。

=====
続きが 2006-11-27の投稿分 にあります。
=====

〔参考〕
教育基本法案について-文部科学省

上の説明資料の中の「基本法をなぜ今、改正するのか」の部分は、学問を司る役所の文書としては、まことにお粗末な、合理的な説明にも何にもなっていない腑抜けな文章である。おそらく省庁内部にも、事の本質が分かり、疑念をもっている人がいるのだろう。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )