私の微分積分法: 解析入門 (ちくま学芸文庫) | |
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筑摩書房 |
・吉田耕作
最近の事情は分からないが、私たちが大学に入ったころは、理系の人間は数学の授業を受けて、驚いた人間が多かったことと思う。その原因は、悪名高いε-δ法。慣れてしまえば、よくできているものだと思えるのだが、これで数学の迷宮に迷い込んでしまい、理系にも拘わらず、数学が苦手だと感じる人間が増えたとしたら残念だ。
このε-δ法を知らない人のために、私が大学時代に使っていた解析学の教科書から事例を挙げてみよう。これは関数の極限の定義に関する部分である。
<関数f(P)の定義域をDとするとき、f(P)の点Aにおける極限値がlであるとは、任意のε>0に対して適当にδ>0を定めると
P∈D で0<PA<δ ならば |f(P)-l|<ε
(PAは線分。上にバーが付くが、システム制約により省略〔評者注〕)
となることである。>(岡野初男「微分積分学」(共立出版)p11)
断わっておくが、私の入学したのは数学科でなく工学部電気系である。ところが、1回生で履修する数学の授業はいきなりこんな感じなのだ。これに馴染めなかった人間も多かったように思う。
本書は、この道の大家である故吉田耕作さんが、このε-δ法を使わずに、解析学の初歩について解説したものである。扱われている内容は、高校の微積分から始まり、その自然な延長として、大学1回生の半分くらいまでを網羅している。
ここで半分くらいと書いたのは、本書が対象とするのは、扱われているのが独立変数が一つの関数に限られているからで、1回生の時に通常は勉強する偏微分や重積分といったものは出てこない。しかし、本書の内容を十分理解すれば、そこから偏微分や重積分と理解を進めることにはさほどの困難はないだろう。
練習問題も豊富なので、時間があれば練習問題を解きながら読んでいくというのが理想的だが、何かと忙しい社会人はもちろん、学生でもなかなかそこまではできないかもしれない。しかし、問題をざっと眺めて、少し考えないといけないようなものを選んで解いていけばよいのではないだろうか。その気になれば高校生でも十分に読める内容なので、数学好きの高校生にもお勧めしたい。
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※本記事は、「風竜胆の書評」に掲載したものです。