文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:・エンブリヲ奇譚

2016-07-22 10:56:13 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
エムブリヲ奇譚 (角川文庫)
クリエーター情報なし
KADOKAWA/角川書店

・山白朝子

 旅本作者の和泉蝋庵と荷物持ちで友人の耳彦が、旅で出会った怪異9編を収録した短編集。語り手は耳彦が務めている。

 この蝋庵、道に迷うのが特技のようなもので、旅本の取材に出ると必ず、妙な所に迷いこんでしまう。これは、彼の出生とも関係があるようだが、空間の連続性を無視したような迷いっぷりなのだ。

 一本道でも迷ってしまって、同じところをぐるぐる回ったり、とんでもないところに出たりしてしまう。もう殆どテレポート。おまけに、訪れた場所で、奇妙な体験をすることになるのだ。もしかすると、本書で一番不思議なのは、蝋庵のこの特技なのかもしれない。

 収録されている作品について簡単に述べてみよう。 「湯煙事変」などは、怪異を扱った作品だが、「地獄」や「「さあ、行こう」と少年が言った」などは、人間の恐ろしさを描いている作品だと言えるだろう。

 表題のエンブリヲとは胎児のこと。表題作の「エンブリヲ奇譚」は、まだ虫のような段階の生きている胎児を拾った話である。

 「ラピスラズリ幻想」は一種の転生ものだ。ただの転生する話ならそう驚かないのだが、この作品では、前の記憶を持ったまま同じ人間としての人生を繰り返すというアイディアが秀逸だ。

 不気味な話ばかりだが、身の毛のよだつような恐怖を抱かせるようなものは少ない。怪談集ではなく奇談集といったところか。読後に哀しい余韻を残すような話が多いのが特徴だろう。
 
 なかなか有望な作家が出てきたかと思っていたら、巻末の千街晶之氏に山白朝子というのは、ある有名作家の別名義だと書かれていた。調べてみると、どうも乙一の別名らしい。なあんだ、どうりでと、ちょっとがっかり。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の摂ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。

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