私が居る理由

~私が今ここに居る理由を探して生きている・・・~ とは言ってみたが、書いていることは超カルい、日々の雑記帳。

「初恋温泉」を読んだ

2007-01-08 14:51:26 | 読んだ本
一気に、読み終える。こういった短編連作、いいね。
年代も立場も違う5組の男女が訪れる実在の温泉宿。
それぞれの気持ちに共感しながら読み進めた。

「初恋温泉」:熱海「蓬莱」
過去も現在も申し分のないご夫婦だと思うけど、「自分が一番幸福な瞬間を見せたいと思うような」相手のため、自分なりにやってきても「幸せなときだけをいくらつないでも、幸せと限らないのよ」と言われる。

「白雪温泉」:青森「青荷温泉」
深い谷底で雪に埋もれているランプの宿で吊り橋を渡り、露天風呂に入りたい。薄明かりでは本も読めずテレビもない部屋、月明かりを浴びた雪景色を眺め入る内湯。『とつぜんの?静寂?』を感じたい。

「ためらいの湯」:京都「祇園畑中」
ダブル不倫といえば、それまでだが、誰もわるくない(気がする)。

「風来温泉」:那須「二期倶楽部」
渓流の水は、まるで何も流れていないように透明だった。この世には透明という色があるのだと恭介は初めて気づいた」「二人の声と渓流のせせらぎ以外、まったく何も音のなかった世界に、遠くから風の音が聞こえてきた。それはまるで狼の遠吠えのようにも聞こえ、遠くから近づいてくるのがはっきりと分かる。思わず二人とも口を噤んで、しばしその音に聞き入った。遠くで山の樹々を揺らしていた音が、あっという間に近寄ってくる。すると音よりも先に周囲の欅がざわざわと身を震わせ、その直後、頭上を風が通り抜けていく。」「・・・・・・今、風が見えましたよね?」
こういった描写に出会えるから、読書はやめられない。

「純情温泉」:黒川「南城苑」
ほほえましい高校生カップル。家族の描写もいい。「一途になりたいと思っている、ってことは、一途ってことじゃねぇか」と言う健二とその言葉を受けて何か言いかけたのだが、その言葉を飲み込むように、「そうね、一緒だよね」と笑った真希。
「星の瞬く山間の露天風呂で、この気持ちがいつかなくなるなんて、いくら考えても想像できなかった」で終わる、この連作集。うまいなあ、吉田修一。


初恋温泉

集英社

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