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「望郷」 湊かなえ 文春文庫

2016-08-14 | 読書



なんとなく買ってきたら、最近は短編集が多い。なんとなくと思っているが、どこかで見たり聞いたりして手が伸びているようだが。
昔は余り読まなかった女性作家や短編にも馴染んできた、読むのも買ってくるのも、読みやすくて作家の特徴が分かるような短編集が多くなっているのかな、編集者の意図通り軽く楽しめる。

短編6編を集めたこの「望郷」はとても面白かった。

読みやすい、分かりやすい、そして共感する部分が多い。言葉は余計な修辞を抜きに、ストレート伝わってくる、そんな作風に素直に向き合えて、共感する部分は自分で納得できて気持がいい。

題名のように湊さんの出身地の島が舞台で、その閉塞感から抜け出ようとする人たちの、様々な家族や人間関係、環境が綴られている。閉塞感というのは島だけに限らず、人々が混生している都会と違って、昔の風習が残る地域には、若い世代にとってこの感じは身近なものだろう。
窮屈な思いはどこにでも転がっている、環境を島にしたところに実感があり重みを感じる。

中の「海の星」が日本推理作家協会賞を受賞している。

6編すべて完成度は高い。結末になってそうだったのかという部分がうまく織り込まれて、ストーリーの感動とともに、そこに意外な事実が隠されている。
暗い話が多いが、明るい未来が拓ける(た)結末が多く、読後感もよくてほっとするところから、湊さんは評判どおりの書き手なのだと納得した。

* みかんの花
都会に出て行き、25年間便りもなかった姉が、作家になり島の行事に招かれて帰ってくる。冷たい姉に隠された過去。

* 海の星
父は失踪していまだに行方が分からない。母は待ち続けているが、そこに親切なおじさんが訪ねてくるようになる。おじさんは貧しい生活の中に、海で取れた魚や時にはクッキーなども持ってくる。釣りを教えてもらったとき、海で青い星のような光を見せてくれた。
ある日正装したおじさんが母の前に手を着いた。

* 夢の国
子供の頃、東京ドリームランドがオープンした。行きたかったが封建的で世間体を気にする祖母や母が反対してついに機会がなかった。
東京に住むようになり、娘を連れ夫婦で東京ドリームランドへ行った。過去との繋がりが思い出される。
人魚姫、白雪姫、シンデレラ姫、でもオーロラ姫って。
すぐに浮かばなかったが眠れる森の美女、眠り姫のことだった。夢の国、東京ドリームランドにいるお姫様は沢山いるようだ、一度も行ったことがないけれど。
6篇で一番心に残った。

* 蜘蛛の糸
飛行機雲を見上げて、この島から連れ出してくれる、空から下がるひと筋の綿のような糸を連想した。
島を出てついに歌手になって、島の行事に招待される。貧しかった子供時代に戻りたくなかったのに。

* 石の十字架
目立たない不遇らしい同級生と友達になった。彼女は博識でいろんなことを教えてくれたが、島を離れてから疎遠になっていた。娘を連れて島に帰った来た、台風で家が浸水したとき助けてくれた人がいた。十字架にまつわる暖かい話。

* 光の航路
教師になって島に戻ってきて、はじめて担当したスラスに苛めがあることを知った。解決法に悩み、怪我をして入院した。
亡くなった父も教師だった、造船業で栄えた島に陰りが見え、最後の進水式にいった。約束した父は痩せた生徒を連れて罰の場所からその式を見ていた。
病室に見慣れない見舞い客があった。父が連れていた痩せた生徒だという。
心にジンと来る。









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