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「シェパード」 フレデリック・フォーサイス 角川書店

2015-06-06 | 読書

フォーサイスは70年代に、大作3篇をもって世界で認められた。遅れて読んだけれど小説の世界にはまり込んでしまった。ところが小説の舞台を再現するかのようにクーデターを計画し失敗した。用意した武器が港で発見されたのだ。 彼はアフリカの大地から断筆宣言をして、ヘリでどこかに飛び去ったというニュースを何かで読んだ。 当時もうこれで終わりかと思っていたが、偶然文庫になっていた「シェパード」を見つけた。思いがけず薄い本で、読んで震えた。 今でこそ航空機が鳥のアタックで落ちたり、エンジントラブルでハドソン川に不時着する原因も、思いがけず知ることが出来るようになった。でも少し前まではボイスレコーダーというものも知らされず、空を飛ぶことは少し恐ろしかった。 これは、フォーサイスの体験も交えて、戦闘機がであった不思議な体験が、生々しく活写されその面白さは今でも忘れられない。 断筆宣言のはずが、暫くして又本屋で見かけるようになった。読んでみようと思って買ってきたが、ちょっと熱が冷めたのか本棚で眠っている。 さてこの「シェパード」なぜそんなに面白かったのか、再読してみた。 1957年12月のクリスマスイブ、ドイツにある英国空軍基地から戦闘機ヴァンパイアが飛び立った。その日最後の一機で、すぐに管制塔の灯が消えて、イブの騒ぎが湧き上がってきた。 操縦士の私はイギリスの故郷に帰るところで、風防は外気の冷たさを写していたが温まった単座の上でぬくぬくと出発した。 だが十分ほどたったころ突然計器が止まり無線も通じなくなった。 コンパスも回転したままで、進路も見失ってしまった。速度計と高度計だけがかろうじて生き残っていた。 飛びなれた目で見ても、夜の目印はぼんやり見える灯火だけで、それもきりに閉ざされてしまった。ライフジャケットをつけて降下したとしても北海の冷たさで忽ち凍りついてしまうだろう。 どこかの管制塔のレーダーにひっかることを念じるしかない。だが、イブの管制塔は、お祭り騒ぎの中だろう、落ち着いた管制官に発見される希望は薄い。 決められた措置として、変則の飛行行動をとる、そうすれば早期警戒システムのレーダーが捕捉してくれる。曹長の教育を思い出した。 二分間隔で大きな三角形を描く。レーダーは捉えてくれるだろうか、救援機(シェパード)は間に合うのだろうか。燃料は? 初めて神に祈った。 死を覚悟して絶叫した。まだ心残りがある。悲しかった。 左翼を月に向かって沈めた時、何かの影が横切ったような気がした。月は反対側にあって乗機の影ではない。 旋廻を続けながら高度を下げスピードを落としシェパードの左翼に並んだ。操縦士の影がはっきり見えた。 シェパードは大戦で活躍した戦闘爆撃機モスキートだった。現役最後のモスキートは二つのプロペラを持ちスマートな形で一世を風靡した。 飛行帽につつまれ風防メガネの二つの玉が光っていた。腕と指で出す合図が見えた。私は燃料が後5分でなくなると返事をした。 レーダー室からの指示が彼には届いているのだろう。私は水平飛行から降下していった。だがどこにも滑走路の灯火が見えなかった。 だが自信を持って誘導するシェパードについていった。突然ぼんやりと並ぶ燈が見えて滑走路が確認できた。どこの基地だろう。 着陸を確かめて、シェパードは飛び去っていった。 太った管制官が走ってきた、人気のない基地は廃屋になっていて、残っていた老人がかすかな音を聞いて灯火をつけたのだと言う。 私はついていた、ついていたんだ。 老人に案内されて、閑散としたした元兵舎の跡で泊まることになった。

老人は思い出話をする。

この部屋はモスキート乗りの部屋だった。愛機に乗って戦いに出たんだ。そして傷ついた戦闘機を誘導してつれて帰ったんだ。 やはりついていた、プロのシェパードが救援に来てくれたのだ。 その頃の話は続いた……。 三編の話が載っている ブラックレター 殺人完了 シェパード どれも捻りがあり、予想外のオチが効いている。長編もいいがそれに劣らない出来だった。 思い出した。「シェパード」の飛び切りの落ちは、クリスマスイブによ出された奇妙な味付けの御馳走だった。
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