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「蜩ノ記」 葉室 麟  祥伝社

2012-11-22 | 読書


「すぐ読んで返してください」と書いてある本の順番が来たので素直にすぐ読んだ。
いつも、私の読む本は、面白いよ~と話しても、回りはあまり受けてくれない。
ところがこの本の話はよく聞いた。逆に、おもしろいよ~~と男女ともに言う。
『「蝉しぐれ」版、直木賞よ』、ということでなんだかOK。

* * *

戸田秋谷は、将軍家側室(お由の方)との不義密通の罪で十年後に切腹という沙汰が下る。その間 向山村に幽閉され、三浦家の家譜編纂を命じられる。

限りある命を感じながら、自然に恵まれた静かな地で日々を送っていた。

秋谷は以前、豊後、羽根藩の郡奉行を務めていた。この村を検分し、副業に莚を編むことを奨励し、無欲で清廉な勤めぶりで、村の行き方についてよく指導し、村人に慕われていた。幽閉中であったが何事か起きると村の相談役にもなっていた。

壇野庄三郎は、奥祐筆であったが、文机で書き物をしていたとき筆の墨が飛んだ。隣にいた親友の信吾の顔にかかり裃の「拝領紋」を汚した。怒った信吾と争いになり、その末に庄三郎の居合いで放った脇差で信吾の足が切れ、彼は歩くのが不自由になった。庄三郎は切腹のはずが許され、秋谷の下に赴くことになる。事実上は三年後の秋谷の切腹までの監視役であった。
庄三郎は秋谷の書いている日記「蜩ノ記」を見せられる。そこには家譜の進捗状況と簡単な秋谷の日常の覚書だった。
秋谷の死に向かう潔さと、私利私欲を離れた静かな生き方を見ていると、あの事件はもしかして冤罪では有るまいか、という考えが浮かぶ。

郡奉行の悪辣さ、飢饉の年の年貢の取立てなど、秋谷に持ち込まれる相談事も多い。

また秋谷の罪の源になった側室のお由の方は、昔、秋谷の実家で働いていた。

正室お美代の方側との、お家騒動に巻き込まれお由の方は毒を飲まされた。秋谷は危ういところで助け、秋谷は逃げた先で護衛をして一夜をともにし、それを不義と誤解されたのだった。だがそれを逍遥として受け入れている。

お家騒動の源は家老、中根の策謀だった。彼はお美代の方を正室にしたが、これには曰くがあり、その経緯の解明はお美代の方の「御由緒書」を見ることであった。
これを巡っての命がけの攻防戦がある。

郡奉行に殺された、親友の百姓のために、秋谷の息子郁太郎は庄三郎を供にして家老に直談判に行く。そこで捕らえられ牢につながれる。

秋谷は「御由緒書」と引き換えに二人を助け出す。

秋谷は家譜の原本を懇意な名刹の和尚に渡す。

* * *

百姓、郡奉行などの殺人事件の犯人は誰か。
秋谷の罪の真相は。
「御由緒書」の行方とその内容、過去の使い途は
秋谷とお由(出家して松吟尼)とのかかわりは
10年目のその日が来たとき、秋谷は、庄三郎は、家族は

ミステリの要素もあり家族愛、お家騒動、権力争いに関わる策謀有り、なかなか盛りだくさんの内容だった。

郁太郎が家老宅に入るときなどは、「蝉しくれ」で明かりを消して船で逃げるシーンのような緊迫感がある。
ただ、完成度で言えば「蝉しぐれ」に一歩譲る。

お家騒動と家老の成功譚と一族の系譜などは少し煩雑で、将軍の来歴もあまり関心を持てなかった。

家老も最後の場面ではなぜかいい人になる。
親友の信吾との確執も解けて、信吾は協力者になっていく。

秋谷の人となりもすぐに分かるし、私淑していく庄三郎の心境も感動的だった。

限られた命を生きる心意気に、武士というものの潔さ、雄雄しさや剛さを感じ、さわやかな読後感で読んでよかった本だった。


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1 コメント

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Unknown (ひろ)
2013-03-19 09:15:36
昨年、読者を泣かせた「蜩ノ記」がいよいよ映画になります。注目の主演戸田秋谷に役所広司、庄三郎に岡田准一、薫に堀北真希、織江に原田美枝子、メガホンを執るのは黒澤明の愛弟子、小泉尭史監督で4月から6月まで岩手・長野等でロケを行い9月に完成予定2014年公開。
ハムリン先生は西南学院大学の学生時代、俳句部と映画研究会だったそうなのでシナリオも厳しくチェックされていると思うので今から封切が楽しみです。
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