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「ユリゴコロ」 沼田まほかる 双葉社

2015-05-27 | 読書

話題になった「ユリゴコロ」は題名が意味不明なのがかえって面白そうに思った。前に「九月が永遠に続けば」を読み始めて、これは合わないと思って止めた。本欠乏時代は活字なら何でも読んで、きちんと最後まで読むと何かしら面白いところが見つかった。それが今では、部屋に本が溢れて山崩れがおきそうな有様になっている。読みたい本が多すぎるので、よく味わいもしないで止めるのに心が痛まなくなった。
この「ユリゴコロ」はとても面白かった。それでもう一度読んでみようと「九月~~」を探したが、もうどこにも無かった。たまに片付けるとこうなる 泣



二ヶ月前に母が亡くなり、祖母はケアハウスに入っていて、父が世話に通っている。その父も膵臓がんなのだが、治療を拒んでいる。
亮介には弟の洋平がいる。
亮介は家を出て、ペット同伴の、シャギーヘッドと言う喫茶店を開いている。
たまたま実家に帰ると押入れが開いていて、雑に出して片付けたようなダンボールの箱が見つかった。父のものだったが、底の方に茶封筒に入った4冊のノートがあった。

日記と言うか手記というか、誰かが書いたらしい文字がびっしりと詰まっていた。最後に空白が残っているものもあった。父のものだと思うと気がとがめたが、読んでみた。

タイトルはユリゴコロと読めた。そしてひどく特異な出来事が記されていた。
 私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか。脳の中ではいろいろなホルモンが複雑に作用しあっていて、そのバランスがほんの少し変化するだけで、気分や性格がずいぶん変わるのだとか (略) 私の診察はすぐすみましたが、そのあとで母はいつも、家での私の様子を長々と医師に話しました。医師は毎回同じ、低い声で話す、眼鏡をかけた人でした。ときには涙も混じる母の話を、根気よく頷きながら聞いていましたが、必要になればぼそぼそと説明をさしはさみます。言い訳めいた口調でよく言っていたのは、この子には・・・のユリゴコロがないからしかたがない、というふうなことです。・・・の部分はときによってちがうので覚え切れませんでしたが、ともかく、いろいろな種類のユリゴコロがあって、そのどれもがわたしにはないらしいのです。
書き出しがこうだった。

怖くなってダンボールを押入れに戻して、そのうち忘れるだろうと思ったのだが、最後まで読まずにいられなかった。

父が出掛けたすきに押入れを開けて、誰が書いたのかわからないまま、ノートを読み進んでいく。

亮介は幼いとき肺炎で入院したことがある。母はベッドのそばで優しく看病をしてくれた。そんな事をおぼろげながら覚えている。退院してうちに帰ると住んでいた前橋から奈良の駒川市に引っ越していた。入院前と後ではなんとなく母の印象が違っていたように思ったが、子供心の思いなどは当てにならない。

そういえば母が亡くなる前、何かにおびえているように見えなかっただろうか。

それにしても、亮介にとっても内容が重たすぎる。弟に協力してもらって、気になるところから解決しようと思う。

父に直接は聞きづらいし、弟は軽い気持ちで聞き流しているようだ。

見つけた手記も気になるが、店のシャギーヘッドでは結婚の約束をしていた店員の千絵が出て行ってしまう。なにも言わないで消えてしまった。店員なので手を抜いて採用時の書類もない。亮介は気力がうせてしまう。
だが店で何かと気に掛けてくれる年配の店員の細谷さんが、一番の支えだった。
細谷さんは千絵のことを自分のことにように調べだす。
そして行方を突き止めてくれた。

もうたまらず手記を読み終え、勇気を出して父に聞いてみた。これは誰が書いたものですか。

父はもう先が永くは無いだろう、と話すことにした。

亮介は、全てについて知ることになる。



手記と亮介の生活が交互に書かれている。不思議な出来事は緊張感があり、周りの思いやりが重く、ときには暖かく、最終章に向かっていく。
変わった設定、情景の描写が続くが読後感は悪くない。と言うより、珍しいケースをテーマにした面白い話だった。

機会があればほかの作品も読んでみようと図書館に予約した。

その本が来る頃は、周りの積読本も少しは減っているでしょう、楽しみにしている。


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