空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「神さまのビオトープ」 凪良ゆう 講談社タイガ

2021-06-04 | 読書

 

これも人気らしく、次の人が待っています(延滞延長はできません)というので慌てて読みかけの本を後回しにした。

 

短編集だが、どれも亡くなった画家の鹿野くんと美術教師のうる波さん夫婦の日常に関わった人たちの話で。

鹿野くんは結婚二年目に亡くなっている。家を出てすぐ交通事故にあったのだが、うる波さんにだけ見える姿で戻ってきた。

作者がよく考えた珍しい設定が大成功で、死んでしまえば人は消滅して残されたものは深い別離の悲しみに迷い込むように想像するが、こんなことが起きると、こんな世界の奇妙さを超えたところで癒されてしまう。
状況を超える難しい問題まで、サラッと解決している。

要は「霊」になって戻ってきた夫をどう受け入れて暮らすか、あまりこ難しいことにしないで、心から歓迎して、自分にだけ見える実態のない鹿野くんと平凡に暮らしていく。読んでいてもまぁいいかと大いに共感する。生死を超えたところにある人の心の温かさが、こなれて読みやすいストーリーになっていて人気のほどがしのばれた。

伯母さんがうるさいくらい再婚話を持ってくる。ありがたいけれど困る。
自分にだけ見える鹿野くんとはつい外でも話してしまう。現実にはいないことになっているとはいえ、「霊」の鹿野くんはお腹を空かせるし、それとなく嫉妬もする。日常の風景も納得の展開で面白かった。
 それでもいろいろな出来事は起きる。

 

☆「秘密」という章では恋愛中の二人に関ってしまう。結婚を前にして男は気になる女性に少し揺らぐ、そして突然死をするのだが、ちょっとミステリアスな味付けで女心を描く。

☆ロボット工学の研究者の父から年頃に合わせたロボットの試作品をもらう。膨大なデータが蓄積されているために生活も会話も全く支障はなかったが「秋」との付き合いで「春」は飛躍的に進化していく。ロボットの「春」と息子の「秋」の友情がますます深まっていく。「秋」の将来が心配になった両親は家庭教師をうる波さんに頼む。
これはロボットの心がより人間的に進化しようとする話だ、「アイロボット」の「サニー」のように。優秀な「春」が「ロボット工学三原則」をはみ出そうとしていることになる。危険を感じた父親は「春」を破壊する。「秋」は「春」を蘇らすために母親とアメリカに留学する。この章はよくできた今のSf風で、面白かった。


☆うる波さんは学校で、初恋がすれ違っていて傷つけあっている若い二人に巻き込まれる。うる波さんは少し痛々しく懐かしい。鹿野くんと微笑ましく見守りながらも、二人の未来を冷静に大人の眼で見ているところなど、なかなか深いものがある。
☆お隣の中のご夫婦はもう還暦も過ぎたらしいが自然体で寄り添っている姿はいつも暖かく、うる波さんたちの秘密にも薄々気がついているのかもしれないが何も言わない。
偶然二人のわけありの過去を知ったけれど。

伯母さんの心配の種は、両親のないうる波さんのこと。でも彼女は一人で(実は鹿野くんと)生きていくことをきっぱり宣言する。
お隣のご夫婦のように「共に生きていく」ことを阻む法律は何もない。
心は自由で、それを阻むものはない。
あってはならない。
なにひとつ。とうる波さんは思っていて、
作者も最後にこういう風にストーリーを閉める。

一人は寂しい。それでも生き方は一人ひとり違う。

死んだ時はどうなの?どうなるのと鹿野くんにきいてみる。
「経験者でしょう」
「死んでいたからわからなかった」
そうなんだ。浮世の出来事などそれでいいのだ。ここでより納得。いろいろとおもしろい。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 薔薇園の薔薇 薔薇好きの薔薇 | トップ | 近所の公園を散歩しました。... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事