伯母(キクエ)が莫大な財産を残して亡くなった。遺言で相続人に指定された弦矢が叔母の家があるロスのランチョ・パロス・ヴァーデス半島を訪れる。広大な豪邸に驚きつつも意味なくうっすらと恐怖感が漂う所だった
弦矢が弁護士から知らされた遺産額はおよそ42億円、家の評価額が増えたとして46億円だということだった。
ただ、遺言書を預かっていた弁護士から6歳で行方不明になった伯母の一人娘のレイラにも相続権があり弦矢に探してほしいと伯母が依頼していた。
この娘は弦矢の両親には白血病で亡くなったと知らされていた。
彼は初めて訪れた叔母の家が豪邸で、それを囲む広大な芝生と伯母好みのハーブ園、四季の草花を植えた庭の広さに驚く。それを管理する庭師も花が咲き競いジャカランダの大木がある庭を愛していた。
弦矢は南カリフォルニア大学でMBAとCPAの資格を得ていた、それは叔母夫婦の強い勧めがあった、伯母と弦矢の両親とはそりが合わなかったが、伯母たちは優しく弦矢にとって最も近しい肉親だった。渡米は日本で亡くなった伯母の納骨が目的だった。
伯母の夫はボストンで自動車関連の会社を経営して成功していたが、二年前膵臓がんで亡くなっていた、独り身になった伯母は念願であった日本各地を旅するために帰国していて、突然修善寺の宿で亡くなった。
弦矢はいとこにあたるレイラを探す決心をする。もし生存していたら遺産は正しく彼女の物だ。
伯母のパソコンのロックを解き写真を見つける。パズルの箱の底から密かに隠してあったらしい手紙も見つける。差出人はモントリオールにいる妹で、それは亡くなった夫イアンにも見せられないものだったらしい。
散歩の途中で見かけたロシア系の大男ニコ(ニコライ・ベルセオスキー)に調査を依頼する。周りは止めたがなぜか信頼できる人物に思えたのだ。
滞在予定の10日間で、弦矢はレイラを探し出せるのか。レイラは亡くなったのではなく当時、行方が分からないと取り乱した伯母が警察に届けていた。それから20年経ち、まだ未解決のままではあるが、幼児誘拐や行方不明は多い。とっくに警察は関心をなくしていた。
散歩で知り合っただけのニコは、よく働いて核心に迫っていった。
ニコは解決後証拠を全て焼こうという。このニコについて
この作品に教訓はないとしても、かかわったすべての人の誠実さと暖かい優しさが底流になっている。
レイラの行方を含めて全てを知ったニコを邪推してはいけない。彼はそれを利用しようなどとは考えもしなかった。武骨で歯に衣着せないが切れる男と、頭はきれるがいささか世間慣れしていないがいい奴の弦矢が組んだ物語は、久しぶりに後味がよかった。
新聞連載だとか、さらさらと流れるように話が進んでいく、今の宮本輝さんを知らないでいたが、まだ健筆をふるい続け、大部の自伝的な小説を書き、初期の暗鬱な作風(泥の河と蛍川しか知らないでちょっといってみたけれど)からこういう作品を書かれるようになったのかと、何か心がほぐれるような気持がした。
遺産相続などといえば何かと人間の汚い欲望が表面化するような話が多い。しかし平凡な暮らしから見れば恵まれた生活で、美しい風景まで見えるようだったが、一方大小にかかわらず裏には隠さなくてはならない事情がある。人生の出来事の大小は傍から見れば主観的なものかもしれないが、子供に関しては悲しみに大小はないと思う。そういうテーマからキクエ伯母さんが人生も終わりが近づいたころになって、人生の気がかりを信頼していたものだけに打ち明けたことに、やはり作者の年輪が感じられる。
若い弦矢が悲しみを汲み取る心の柔らかさや、周りのすべての人々の善良さがこの話を支えている。無頼に見えるニコの使い方も爽快で、彼がいてこそ、このじんと来る結末が快い。ありえないような突然の遺産相続から出発したところは何かミステリアスな匂いがするが、そういった要素を織り交ぜながら、解決後はほのぼのとした明るい未来が見える。
ランチョ・パロス・ヴァーデス半島をグーグルアースで見てみた、キクヱ伯母さんの豪邸も財産も半島一帯の豪壮な邸宅群にあっては、遺産額も、文中の台詞によれば富豪という人の足元のチリ程度だとか。そうかでも、などと思うのは下司なことかも。ジェットもヨットもいらないけれど。ジャカランダの咲く花園はいいなぁ。
ただ、遺言書を預かっていた弁護士から6歳で行方不明になった伯母の一人娘のレイラにも相続権があり弦矢に探してほしいと伯母が依頼していた。
この娘は弦矢の両親には白血病で亡くなったと知らされていた。
彼は初めて訪れた叔母の家が豪邸で、それを囲む広大な芝生と伯母好みのハーブ園、四季の草花を植えた庭の広さに驚く。それを管理する庭師も花が咲き競いジャカランダの大木がある庭を愛していた。
弦矢は南カリフォルニア大学でMBAとCPAの資格を得ていた、それは叔母夫婦の強い勧めがあった、伯母と弦矢の両親とはそりが合わなかったが、伯母たちは優しく弦矢にとって最も近しい肉親だった。渡米は日本で亡くなった伯母の納骨が目的だった。
伯母の夫はボストンで自動車関連の会社を経営して成功していたが、二年前膵臓がんで亡くなっていた、独り身になった伯母は念願であった日本各地を旅するために帰国していて、突然修善寺の宿で亡くなった。
弦矢はいとこにあたるレイラを探す決心をする。もし生存していたら遺産は正しく彼女の物だ。
伯母のパソコンのロックを解き写真を見つける。パズルの箱の底から密かに隠してあったらしい手紙も見つける。差出人はモントリオールにいる妹で、それは亡くなった夫イアンにも見せられないものだったらしい。
散歩の途中で見かけたロシア系の大男ニコ(ニコライ・ベルセオスキー)に調査を依頼する。周りは止めたがなぜか信頼できる人物に思えたのだ。
滞在予定の10日間で、弦矢はレイラを探し出せるのか。レイラは亡くなったのではなく当時、行方が分からないと取り乱した伯母が警察に届けていた。それから20年経ち、まだ未解決のままではあるが、幼児誘拐や行方不明は多い。とっくに警察は関心をなくしていた。
散歩で知り合っただけのニコは、よく働いて核心に迫っていった。
ニコは解決後証拠を全て焼こうという。このニコについて
「ウクライナ人を怒らせるな」という昔からよく知られた格言のせいで、ウクライナ人はすぐに頭に血がのぼる過激な民族のように誤解されてはいるが、そうではない。
ウクライナ人は穏やかで朴訥で誠実な民族だ。だからこそ、自分たちの誠実さを利用して裏切るようなことをする人間への怒りは激しい。
格言には、そういう意味も含まれているのだ、誠実には誠実をという万国に共通する教訓を秘めた格言なのだ。
この作品に教訓はないとしても、かかわったすべての人の誠実さと暖かい優しさが底流になっている。
レイラの行方を含めて全てを知ったニコを邪推してはいけない。彼はそれを利用しようなどとは考えもしなかった。武骨で歯に衣着せないが切れる男と、頭はきれるがいささか世間慣れしていないがいい奴の弦矢が組んだ物語は、久しぶりに後味がよかった。
新聞連載だとか、さらさらと流れるように話が進んでいく、今の宮本輝さんを知らないでいたが、まだ健筆をふるい続け、大部の自伝的な小説を書き、初期の暗鬱な作風(泥の河と蛍川しか知らないでちょっといってみたけれど)からこういう作品を書かれるようになったのかと、何か心がほぐれるような気持がした。
遺産相続などといえば何かと人間の汚い欲望が表面化するような話が多い。しかし平凡な暮らしから見れば恵まれた生活で、美しい風景まで見えるようだったが、一方大小にかかわらず裏には隠さなくてはならない事情がある。人生の出来事の大小は傍から見れば主観的なものかもしれないが、子供に関しては悲しみに大小はないと思う。そういうテーマからキクエ伯母さんが人生も終わりが近づいたころになって、人生の気がかりを信頼していたものだけに打ち明けたことに、やはり作者の年輪が感じられる。
若い弦矢が悲しみを汲み取る心の柔らかさや、周りのすべての人々の善良さがこの話を支えている。無頼に見えるニコの使い方も爽快で、彼がいてこそ、このじんと来る結末が快い。ありえないような突然の遺産相続から出発したところは何かミステリアスな匂いがするが、そういった要素を織り交ぜながら、解決後はほのぼのとした明るい未来が見える。
ランチョ・パロス・ヴァーデス半島をグーグルアースで見てみた、キクヱ伯母さんの豪邸も財産も半島一帯の豪壮な邸宅群にあっては、遺産額も、文中の台詞によれば富豪という人の足元のチリ程度だとか。そうかでも、などと思うのは下司なことかも。ジェットもヨットもいらないけれど。ジャカランダの咲く花園はいいなぁ。