空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「錦秋」 宮本輝 新潮文庫

2021-05-26 | 読書

 

 

悲しみを振り返る往復書簡。愛しながら離れてしまった夫婦が、過去と現在を少しずつ知らせ合い、次第に傷が癒されていく。
男女の愛情というものは、人の形のようにお互いの想いの形は少しずつ違っている。すべて都合にいいように理解できるものではない。振り返ってみて避けようがなかったことと、後悔も人生の一部だと受け入れていく。そうしなければ時間は重すぎる。

離婚して10年後、錦秋の蔵王のゴンドラで偶然出会った。二人は言葉の用意もなく分かれた。
こうして先ず女(勝沼亜紀)から長い長い手紙を書く。
(有馬靖朗)は、今の生活を知られたくない。無職で金に追われている。

亜紀はもう分かれた理由は分かっている、それで別れたのだ。靖明が別の女と付き合っていた、結婚後も続いていた。だまされてきた。だが靖明はその女と心中をして女が死んだ。そんな終わり方を許すことはできなかった。

その傷を忘れられないまま勧められて新しい夫を迎え、障害のある子を産んだ。

靖明は、青春時代を送った養子先で知り合った女が初恋だった。周りの目を引くような奔放な女に惹かれた。初めての恋などは自然に消えていく。だが靖明には二人の忘れられない出来事が結婚後も心に残っていた。
そしてふと逢ってみたいと思い、つながりが復活した。そんなことを書き送るようになった。
何度かの手紙で過去の出来事を書くようなっていく。

亜紀は靖明と分かれた後に結婚した夫も外に女がいた。息子の世話に明け暮れていたが、細やかさのない夫は子供をかわいがるように見えるが、夫婦のつながりは薄かった。

次第に過去から現在のくらしや心境を、知らせあうようになる。
靖明は何人かの女と交わってきたが、今の女と支え合って生きて行こうと思うと書く。
亜紀は今の夫と別れ子供を育てながら生きていくと知らせる。
そんな時間の流れが二人の手紙に書かれていく。

いつまで書いていてもきりがありません。いよいよ筆を擱くときが来たたようでございます。私はこの宇宙に、不思議な法則とからくりを秘めている宇宙に、あなたと令子さんのこれからをお祈りいたします。
さようなら。お体、どうかくれぐれもお大切に。さようなら。

人生には後悔はいくつもある。気づかないまま後になって気づくもの、故意に起こしたもの、運命だと諦めるもの、重くても軽くても、分岐点で進路を間違えたと気が付いた時には遅い。そんな中で生きて死んでいく。
その一つの形が手紙に中にあって、それは誰にとっても悲しみを生きることに繋がっていて共感を呼ぶ。
錦秋の蔵王があって、毎年四季を繰り返している。不意の出会い、そんな偶然で過去が繋がっても、思い出にして日常を生きて行かないといけない。そんな話だった。

 

 

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