「植草一秀の『知られざる真実』」
2014/11/18
「消費増税中止国民会議」が295候補を推薦する
第1012号
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『日本経済撃墜』(ビジネス社)
http://urx.nu/efEq
に記述した通りの現実が広がっている。
この拙著を上梓したのは、日本がアベノミクス絶賛の声に包まれていた局面
だった。
2014年は株価が大きく跳ね上がる年だとされた。
しかし、年初から株価は下落傾向をたどった。消費税増税の影響を織り込み始
めたのだ。
そして、警告通りに日本経済は撃墜された。
この現状で消費税再増税に突き進めば、日本経済は奈落の底に突き落とされ
る。
『日本の奈落』(ビジネス社)
http://goo.gl/48NaoQ
この警告を突き付けられて、安倍政権が消費税再増税の先送り決断に追い込ま
れた。
安倍政権が本年4月の消費税増税を先送りしていれば、いまごろ日本経済は完
全なる景気回復軌道に移行していたと考えられる。
これが安倍政権の表看板であるアベノミクスの生かし方であった。
安倍政権は野田政権が推進した財政再建原理主義からいったん離れて、日本経
済の浮上を優先するスタンスを採用した。
このこと自体は正しい選択であった。
経済財政を健全化するには、経済という根本を大切にし、これを育てる発想が
不可欠である。
「経済あっての財政」
であり、
「財政あっての経済」
ではない。
この基本を忘れて、経済財政の健全化を実現することはできない。
安倍政権が経済再生に舵を切り替えたことは間違っていなかった。
しかし、この基本方針を捨て去り、逆方向に進んでしまった。
その結果が増税先送り判断に追い込まれた現在の姿である。
「アベノミクス」を「アベコベノミクス」に転換してしまった。
その結果として安倍政権は窮地に追い込まれているのである。
もうひとつ、アベノミクスには決定的な欠陥がある
それは、「成長」だけに目が向かい、「分配」に対する配慮がないことだ。
「政治は力の弱い者のためにある」
という根本が欠落しているのである。
アベノミクスは力の強い者がさらにのし上がることだけを目指すものである。
逆に力の弱い者をさらに踏みつけるものである。
ここに、アベノミクスのより本質の問題がある。
さて、11月17日発表のGDP統計で2四半期連続のマイナス成長数値が発
表された。
GDPショックが広がった。
11月16日の沖縄知事選で与党推薦候補が大敗し、11月17日のGDP速
報で2期連続のマイナス成長に直面した。
主権者の安倍政権に対する評価は大きく沈み始めている
このなかで安倍政権は大義名分のない解散総選挙に突き進む。
消費税再増税を先送りすることを「売り」に選挙に挑む。
消費税再増税で「人気」を得ることができると考えていると思われる。
しかし、この目論見は甘い。
安倍政権が提示する「消費税再増税延期」
に対して、
「消費税再増税中止」
が提案されるからである。
つまり、今回の選挙は「消費税選挙」になる。
消費税再増税を
「延期」とするのか、
それとも
「中止」とするのか、
これを国民が判断することになる。
主権者の多数が消費税再増税の「延期」ではなく、「中止」を求める場合、安
倍政権与党は大敗北する可能性が浮上する。
この見方を見落としてはならない。
7-9月期の生産が前期比マイナスになった最大の理由は、在庫投資が大幅に
マイナスになったことである。
4-6月期に在庫が激増した。
4-6月期に驚くべき売れ残りが大発生したのである。
4-6月期のGDP成長率は、売れ残りと外需の寄与を除くと、年率17%の
マイナス成長だった。
日本経済新聞が「消費税増税の影響軽微」の大キャンペーンを展開した。
この誤報を信用した企業経営者がいたのだろう。
消費税増税で販売が激減した。
生産抑制が遅れて売れ残りが大発生してしまった。
在庫が激増したのである。
売れ残りであっても、生産したことは事実で、GDPは「生産」の統計なの
で、これがカウントされる。
4-6月期の成長率が年率マイナス7.3%にとどまったのは、売れ残りの大
量発生が生産に含まれているからである。
在庫と外需の影響を取り除くと、4-6月期の成長率は実態としては、マイナ
ス17%であった。
7-9月期は積み上がった在庫の山をわずかではあるが削減した。
供給された財・サービスの一部は7-9月期の「生産」によってではなく、積
み上がった「在庫」から提供されたものである。
この分、7-9月期のGDP成長率が低くなった。
この影響を取り除くと、7-9月期の成長率は小幅のプラスだった。
4-6月期のGDP成長率は、実態としてはマイナス17%だったのに、見か
け上はマイナス7%にとどまった。
逆に7-9月期の成長率は、実態としてはわずかにプラスだったが、見かけ上
はマイナスになった。
いずれにしても、消費税増税の影響は激烈だった。
家計調査で個人消費の動向を見ると、4月以降、消費水準は前年水準の約95
の水準で推移し続けている。
過去2度の増税実施時期と比較して、今回の消費の落ち込みは突出している。
消費が激減し、一向に回復してこないのだ。
その理由は単純明快である。
消費が激減しているのは所得が減少しているからである。
9月の家計調査統計を見ると、
実質実収入(勤労者世帯)が前年比マイナス6.0%
実質消費支出(二人以上世帯)が前年比マイナス5.6%
である。
所得が減り、消費が減っている。
これがアベノミクスの帰結なのである。
一言で言って、アベノミクスは失敗である。
安倍首相は所得が増えていると言うが、増えたのは大企業の夏のボーナスだけ
である。
賃金は増えていない。
とりわけ、中小企業の労働者の所得は増えていない。
一方で円安誘導=インフレ誘導の黒田日銀の政策は、日本のインフレ率を引き
上げている。
所得が増えず、物価が上がるから、実質所得が減少する。
実質所得が減少するから実質消費支出が減少する。
当たり前のことが、当たり前にように起きているのだ。
消費税再増税を先送りすることは必然の選択であるが、インパクトに欠ける。
消費税再増税の「延期」ではなく「中止」が必要である。
消費税を増税する前提であった
「シロアリ退治」がまったく実行されていない。
議員定数削減も行われていない。
また、社会保障制度の拡充もまったく進んでいない。
つまり、消費税増税はいったん白紙に戻すべきなのだ。
これを問うのが今回の選挙の最大争点になる。
ただし、小選挙区制度下の選挙では、選挙に勝つ「戦術」が必要になる。
選挙に勝つ「鉄則」は候補者を絞ることである。
候補者を絞らなければ当選は難しい。
そこで、
「消費増税中止国民会議(仮称)」
という主権者運動を立ち上げて、全国295の選挙区にそれぞれ1名ずつ、
「消費増税中止国民会議」が推薦する候補者リストを提示する。
そして、消費増税中止を求める主権者にこのリストに掲載された候補者への投
票を呼びかける。
基本的に政党は問わない。
政党主導ではなく、主権者主導で候補者調整、候補者絞り込みを行うのであ
る。
消費増税の「延期」対「中止」
この図式で総選挙を戦う。
そして、「消費増税中止」勢力で国会過半数を獲得する。
そうすれば消費増税を中止に追い込むことができる。
政権交代も実現する。
不可能ではない、あり得るシナリオである。