「植草一秀の『知られざる真実』」
2019/08/02
日米経済政策運営四つの誤り
第2396号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019080219093657072 ──────────────────────────────────── 7月17日付メルマガ第2382号 「消費税増税による株価急落前夜の様相」 https://foomii.com/00050
に次のように記述した。
「NYダウが昨年10月高値を超えて史上最高値を記録した。
その一方で、日経平均株価上昇は強く抑制されている。
NYダウが史上最高値を更新した一方で、日経平均株価は下落幅の62%しか 回復できなかった。
7月4日の参院選公示までは、安倍内閣が消費税増税を凍結する可能性が残さ れていたが、安倍内閣は消費税増税強行に突き進んだ。
その結果として株価が低迷色を強めている。
日銀の黒田東彦氏は財務省出身者で消費税増税の側面支援の役割を担ってい る。
日銀は株式市場への介入にも手を染めており、参院選前に株価が急落しないよ う、株価買い支え介入を行っている。
しかし、選挙が終了すれば株価買い支えの理由も消滅する。
人為的な株価買い支えは後の株価急落を激しいものにする原因になる可能性が 高く、日銀としても無節操な株価買い支えを継続することはできない。
消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年の場合、日経平均株価は 消費税増税の3ヵ月前から下落基調に転じた。
10月の消費税率引き上げを踏まえると7月下旬からは株価に対する下方圧力 が強まる可能性が高い。」
私が執筆している会員制レポート『金利・為替・株価特報』 http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html
では、7月29日発行号(7月25日執筆)=第329号タイトルを
「米利下げ=材料出尽くし&米中交渉を注視」
としたうえで、
第3節【株価】日本株価下方圧力に警戒
に株価下落予測を記述した。
参考銘柄には「日経平均株価先物=売り」を提示した。
本レポートが、参考銘柄に「日経平均株価先物=売り」を提示するのは、昨年 10月15日発行号に続いて史上2回目のことだ。
昨年10月から12月にかけて日経平均株価は22.5%の下落を演じた。
『金利・為替・株価特報』では、株価下落警報を発令した。
7月29日発行号では、7月末から8月初めにかけての三つの重要イベントに ついて記述した。
米国のFOMC、米中通商交渉閣僚級会合、7月米国雇用統計発表である。
雇用統計は日本時間の8月2日夜に発表になる。
この統計数値が金融市場の現況判断に重要な影響を与える。
発表数値は事前に決め打ちできない。
発表数値を踏まえた対応が必要になる。
現実には、7月末からの内外株価急落が観察されている。
昨年来、株価下落の主要の三要因は
1.米中貿易戦争 2.米国金融政策 3.日本消費税増税
である。
安倍内閣は消費税増税延期を検討したが、最終的に増税強行に突き進んだ。
安倍首相が財務省に弱みを握られていることが増税強行に突き進んだ主因であ ると見られる。
森友問題で財務省はすべての情報を掴んでいる。
安倍首相は2017年2月17日の衆院予算委員会で
「私や妻が関わっていれば総理大臣も国会議員もやめる」
と明言した。
財務省が事実を公表すると安倍首相は総理大臣も国会議員も辞めなければなら なくなる。
財務省の岡本薫明事務次官は私と同年次の人物だが、この種の折衝能力に長け た人物である。
安倍首相は財務省に弱みを握られて消費税増税に突き進んだ。
米国ではトランプ大統領が金融政策を支配しようとしている。
これも重大な問題だ。
『金利・為替・株価特報』では、7月1日発行号の
第3節【FRB】利下げへの過大な期待は禁物
に、米国金融政策の実相を詳述した。
7月31日の0.25%利下げとパウエルFRB議長の会見での発言内容は、 このレポートに記述した通りのものになっている。
2019年後半に向けて、経済金融の波乱が拡大するリスクが高まりつつあ る。
経済政策運営上の大きな誤りが観察されている。
四つの誤りを指摘しておこう。
第一は、トランプ大統領の過剰な米中貿易戦争
第二は、トランプ大統領の過剰な金融政策への介入
第三は、安倍内閣の消費税大増税路線
第四は、安倍内閣の対韓国敵視政策
である。
これらの政策運営が、米国と日本の経済を崩壊させる主因になるだろう。
「リーマンショックのようなこと」が人為的に引き起こされる可能性が存在す る。
第一の米中貿易戦争
米国は世界第一の経済大国の地位を中国に脅かされていることに強い焦りを感 じている。
米国の焦燥感を端的に示しているのが、ペンス副大統領による昨年10月のハ ドソン研究所での講演内容だ。
今後の経済活動における最先端分野の覇権を中国に奪われることに対して米国 が極度の恐れを抱いていることが鮮明に浮かび上がる。
この「焦燥感」を背景に、トランプ大統領は中国の対米輸出5500億ドル全 体に対して制裁関税を発動する方針を示している。
2500億ドル分については25%関税がすでに発動されており、残りの30 00億ドル分に対しても10%関税が発動されることが新たに表明された。
また、中国企業への米国企業からの技術移転全面禁止、政府による産業補助金 の全面禁止などを米国が要求しているが、合理性を欠いた要求だ。
米中貿易戦争の拡大は米国経済に強い下方圧力を与えることになる。
第二の米国金融政策
FRB議長に就任したパウエル氏は極めて高い政策運営能力を示している。
しかし、このパウエルFRBに対するトランプ大統領の介入が過剰である。
トランプ大統領は勘違いしている。
金融政策の判断はFRBに委ねるべきである。
大統領が金融政策を決定するのが適切であると考えるなら、法律を改定して、 大統領による金融政策決定権限の法的根拠を整備するべきだ。
トランプ大統領の過剰介入が結局はトランプ大統領自身の苦境を招く原因にな ると考えられる。
日本政府が消費税増税強行に突き進むのは経済の自死行為である。
日本企業の収益環境変化を安倍内閣はまったく認識していない。
企業収益動向の激変が始まっている。
他方、消費税制度は格差是正を全面的に対立する施策である。
オールジャパン平和と共生は昨年4月に
消費税廃止へ、最低賃金全国一律1500円政府補償、奨学金徳政令
などの五つの政策を提言した。
この政策提言を丸呑みしたのが「れいわ新選組」である。
消費税率10%は所得の少ない階層の生活を破壊する。
年収400万円以下の主権者が全体の半分以上だ。
この人々から1ヵ月分の給料以上のお金を巻き上げるのが消費税率10%の経 済政策なのだ。
結局、「リーマンショックのようなこと」によって消費税増税が中止されるこ とになる可能性も浮上し始めた。
安倍内閣の韓国敵視政策が暴走状態に移行している。
安倍内閣の御用報道機関に堕しているNHKは現在の日韓問題を公正に報道し ていない。
日本側の主張と併せて韓国側の主張も公正なスタンスで報道しなければ、主権 者が問題を正しく認識できない。
中立性を欠く報道が、外交関係をさらに悪化させる原因になる。
建設的で互恵的な外交関係を構築するためには、自己の主張を明示するととも に、相手の主張にも真摯に耳を傾ける姿勢が必要不可欠だ。
安倍内閣の幼稚な対応が、結局は日本経済に対しても重大な悪影響を与えるこ とになると予想される。
米国が日本の対応を抑制する可能性があり、この対応にも注目しなければなら ない。
本メルマガでは日韓関係の諸問題を中立公正な立場から論評してきたが、日本 政府が良識をもって冷静な対応を示すことが必要である。
いすれにせよ、日本経済は2019年末に向けて、厳しい情勢に突き進む可能 性が高まっていることに留意が必要だ。
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