セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「乱れる」その2

2013-09-25 22:56:43 | 邦画
 昨日の記事に追加しようと思ったのですが、そこそこ長くなりそうなので新
しく書き足す事にしました。
 「終」の出し方に尽いてなので、未見の方はご遠慮願います。

 「んんんんん・・」
 「!? ひぇ! えっえええええ!!!!!」
 実に凄まじい「終」の出方。
 今日、いろいろな方のレビューを拝見したのですが、「ソファから転げ落ち
た」、「呆然」、「愕然」、実に反応が面白く、全て納得出来る感想でした。

 終わり方が「ギロチン・カット」(勝手に命名)なんですよね。
 テンションと情感が最高に盛り上がった頂点で、全ての感傷をぶった切る
ように突然「終」の文字。
 その瞬間、クライマックスに相応しく高揚した気持ちが「宙ぶらりん」にされ
てしまいます。
 「自分の気持ち」の持って行き場がなくて、茫然自失の状態。
 最初は誰もが、「何でここで終わるの!!」だと思います。
 でも、冷静になるに従って「あそこで「終」も有りだな」になり、やがて「あそ
こしかない!」と確信に変わる。
 そして、「さすが成瀬、只者じゃない」と感じ入ってしまいます。

 あの「茫然自失」も「宙ぶらりん」も、よく考えればラストシーンのヒロイン礼
子の感情と似たものなんですよね、勿論、礼子の何百分の一に過ぎないの
だけど、「似てる」事には間違いない。
 その為には「あの瞬間」しかないんです。
 高峰秀子さんの渾身の演技と成瀬監督の見澄ましたような完璧なタイミン
グ、この二つの奇跡のような相乗効果が、作品を「名作」、「傑作」の域に押
し上げる一つの要因になってると僕は思いました。

 突然、ぶった切るような終わり方が効果的だった作品に黒澤監督の「天国
と地獄」も有ります(「どん底」の方が唐突感が強いけど)。
 でも「天国と地獄」の場合、話のリズムでトン・トン・バシャな感じが有って、
「乱れる」に較べて技巧を感じます。
 「乱れる」にしてもテンションが持続するギリギリほんのチョット手前の所で
終わらせる、という技巧が入ってるのでしょうが、「天国と地獄」より無作為、
無造作な感じがして技巧なんか感じさせません、それでいて終わる「瞬間」が
コンマ1秒も狂っていないんです。
 フィルムの「編集」に関しては「世界の誰にも負けない」と自負していた黒澤
監督をして、「成瀬さんの編集は凄い」と言わしめた実例の一つなのかもしれ
ません。
 それと、もう一つ。
 「天国と地獄」は「終」の文字が浮かんだ後、F・Oを使って哀感、やるせなさ
を強調するのですが、「乱れる」は、そんな情緒的な事は一切しないんです。
 その辺も、僕は完全な「黒澤派」なのですが、「やられた!」と感じました。

 しっかし、ホントにとんでもない所で終わる作品、成瀬さん「鬼」だ。(笑)
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2 コメント

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Unknown (きみやす)
2013-10-10 20:20:02
たびたび、すみません。

本当に、
>それでいて終わる「瞬間」が
コンマ1秒も狂っていないんです。

ですよね~。
「茫然自失」になりながらも
やはりこのラストしかないと思わせる
とんでもなさ。
感服しました・・・。
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Unknown (鉦鼓亭)
2013-10-11 00:33:09
 きみやすさん、こんばんは

たびたび>そんな事ないです!

以前、プラモデルの「TAMIYA物語」みたいなのを読んだ時、ジオラマに置く人形の造形について社長が語ってる部分がありました。
(手榴弾を投げる兵士の姿を例にして(だったかな~笑))
それによると、投げる瞬間だと「生きた人物」に見えない、一番臨場感が出るのは「その一コマ手前なんです」と言う事でした。

このラストシーンを観た後、暫くして、その言葉を思い出しました。

「名匠」と言われる人は、やっぱり、人を凌駕するセンスの持ち主なんだなァ、とつくづく思いました。
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