国立大学職員日記
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 事務側から国立大学というものを眺めると、まず第一に行政組織であるというところが目につくような気がします。もちろん国立大学、それも旧帝大レベルや総合大学レベルになると、教授を筆頭とした教員群、医者や技師や看護師といった医療従事者群、博士研究員や客員研究員や特任研究員のような研究者群、事務補助員や技術補助員のような非常勤職員群のように、「その職業の肩書きが国立大学職員という肩書きより前にくる」職員さんもたくさんいます。これらの職員をひっくるめて考えると国立大学というものは随分とバラエティに富んだ人間の集まりなのですが、まだまだかつてのお役所根性が抜けていない事務室から国立大学事務職員が普段目にする国立大学とは、相も変わらず事務は事務の縦割り社会を持つ行政組織という印象が強い気がするのです。
 そんな環境で勤続年数が増えてくると、たまに思うことがあります。それは「自分は事務職員として、国立大学という閉鎖的な社会の中で一体どこまで出世できるのだろうか?」ということです。これは「自分には出世できるほどの器量があるのか?」という疑問であると同時に、「大学は勤続年数を重ねた職員にどれほどのポストを用意してやれているのか?」という構造論的な疑問でもあります。職員がどんなに優秀であっても、事務局の部長のポストの数には限りがあり、全員を部長クラスまで出世させることは「組織の構造上」することができません。同様に次長・室長・課長・部局事務部長・課長補佐・専門員・係長・専門職員と、どんな役職にも定員があり、事務職員は業務に対する「絶対的」な能力を参考にされつつも、やはり同役職・同年齢の職員群の中で「相対的」に優秀な人間から上位の役職を任命されることになります。ちなみにこれらの役職は本省職員あるいは本省勤務経験を持つ職員が優先的に配置されるために、自分のような根っからの国立大学事務職員が就ける役職はさらに狭まることになります。
 大学側がこれから自分に提供してくれるポストは現時点ではもちろん知る由もありませんが「大学側がこれまでに職員に対してどれほどの役職を提供していたか」を知る、ある一つの方法があります。定年退職者の退職時の役職の調査がそれです。国立大学に限らず、国家公務員系統の組織においては役職を下げる「降格」はかなり厳しい処分であるためになかなか行われないというのが現状です。このことを背景にして、定年退職者の退職時の役職を調査すると大学側が事務職員に対してどれほどのポスト(出世枠)を与えてきたのかが分かるはずなのです。
 幸いにも、定年退職者の定年時の役職というものは大学内部向けの広報誌の年度末号に掲載されているものです。今回は過去数年分、100名を超える定年退職者のデータを元に、彼ら彼女らが一体どこまで出世したのかを調べて見ました。前置きが長くなりましたがまずは下のグラフをご覧ください。





 主任・係員クラスの職員さんもいますが、このあたりにはいわゆる「教室系技術職員」と呼ばれる職員さんが多くいるらしいので、純粋に事務職員のみ考える場合にはそこまで重要になってきません。
 その上で改めてグラフを見ると、個人的には係長クラスの多さにまず驚きました。およそ3人に1人が係長として定年を迎えるわけで、これはひどい言い方をすると3人に1人が俗に言うところの「万年係長」な訳です。グラフでは分かりやすいように「係長級」と書いていますが、ここでいう「係長級」には係長と専門職員を含みます。
 係長級についで多いのが課長補佐級です。課長補佐級・課長級・部長級あわせて50%を超えることから、退職時に課長補佐級になれると「大体人並みの出世をした」と表現してもよいのかもしれません。割合的には大体5人に3人は課長補佐級以上まで出世します。
 法人化した国立大学では課長級以上になると労働法上の「使用者」となり、裁量労働制をとって異動に関しても全国人事となります。なれる割合は4人に1人です。漫画界におけるスーパービジネスマンとして有名な島耕作は連載当初からいきなり「課長」でしたが、国立大学事務職員では定年まで勤めて4人に1人がやっと彼と肩を並べられる訳です。ちなみに彼が最初に課長に昇進したのは36歳の時、国立大学事務職員では主任になって3~4年目くらいであり、本省キャリア組の国立大学出向者では課長になって4~5年目あたりでしょうか。
 部長まで出世できるのはわずかに6%。20人に1人あたりです。旧帝大や総合大学になってくるとこのあたりに本省職員や本省勤務経験者が降りてくると思うので、国立大学にずっといた人間がここまで行くのはかなり至難の業でしょう。自分の大学の場合、事務局長に自分の大学の職員がなることはまずありません。大体は本省キャリアがなり、極稀に準キャリアがなるくらいだそうです。事務局長は国立大学のポストでありながら、国立大学事務職員にはあまり関係のないポストなのかもしれませんね。

 さて定年退職者から見た国立大学事務職員の出世推論はいかがでしたでしょうか。自分はこの文章を書くのに前もってグラフを作成していたので、グラフが出来上がった時点で「課長級になれるのがわずかに4人に1人…。それどころか3人に1人は係長で終わるなんて…」とちょっとショックを受けました。今回のエントリーが全体的にネガティブなのはその影響です。ただ一つ注意しなければならないのが、このグラフの元になったデータが平成21年3月31日付けの辞令を先頭にした数年分であるということ、これは要するに、このグラフは「団塊の世代」の定年の影響をもろに喰らっているという訳です。国立大学事務職員の年齢別構成人数を調べれば「団塊の世代」がかなりの割合を占めていますから、その「団塊の世代」が定年退職をすると彼ら彼女らが占めていたポストが次の世代に、それも「団塊の世代」のように年齢が近寄った層にではなく「団塊の世代」と「段階の世代ジュニア」に挟まれた大学内で構成人数あまり多くない世代に受け継がれることになりますから、数年後に同じような方法でグラフを作成すれば国立大学事務職員は定年時までにもう少し出世しているのではないかなと思います。
 出世競争に躍起になるというのも考え物だとは思いますが、キャリアを積んだ職員に次のステップを準備することも上層部の義務の一種だと個人的には思っています。自分みたいな人間には広報誌の情報を集めてグラフを作るくらいしかできませんが、大学の事務局本部か、あるいは本省自らが調査をすればこのあたりの構造的な問題点がもう少し判明するのではないでしょうか。既刊のレポートがあるならぜひ読んで見たいと思った今日この頃です。

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