大黒さんの金魚鉢

黒金町の住人の独り言は“One”

One voice , one mission , one family

二宮尊徳伝(最終回)

2014年10月23日 | 労働者福祉
尊徳67歳の時、幕府から「日光東照宮領の仕法に着手せよ」の命令が出されました。
尊徳が待ち望んでいた事業です。
喜んだ弟子たちが尊徳のもとへお祝いに駆けつけました。
弟子たちに向かって尊徳はこう語りました。
「我が願いは、荒地よりも、人々の心の荒廃を開拓することだ」
人々の“心田の開発”をすることこそ尊徳生涯の願いだったのです。
具体的には「怠・奢・奪の心から、勤・倹・譲の心」への心田開発のことです。
これはいわば尊徳流の道徳教育理論ですが、この道徳教育の難しさは人間の性にあります。
人間の心はどちらかといえば“善とされるもの”よりも“悪とされるもの”のほうに動きやすいからです。
勤・倹・譲よりも怠・奢・奪のほうに傾きやすいということですね。
だから指導者はそのことをわきまえて、自ら戒め、深く自覚・自戒せよということでしょう。

尊徳は幕末の荒廃した農村を復興し、人々の暮らしを立て直すために生涯を捧げ尽くし、70歳の天寿をまっとうしました。
死に臨んで弟子たちに次のように遺言しました。
「私の死ぬのも近いだろう。
私を葬るのに分を越えるでない。
墓石を立てるでない。
碑も立てるでない。
ただ土を盛り上げて、そのそばに松か杉を一本植えておけばそれでよろしい。
決して私の言葉に違ってはならない」


尊徳伝を書きながらいくつものことを学びました。
素晴らしいリーダーには人を惹きつける魅力があります。
それはある種の強力なパワーです。
パワーを持った指導者はいつしか権力を持ちます。
その権力の使い方を誤ると組織や社会は崩れていきますから、その行使にはよほどの注意が必要です。

あなたのパワーの源泉はなんでしょうか?
お金、肩書き、暴力、人事権、報酬、色気、裏切り、ゆすり、サボタージュ、知恵、知識…?
尊徳のパワーの源泉は「徳」でした。
まだまだ私たちの勉強の道程は続きます。

(参考文献)
大貫 章「二宮尊徳の生涯と業績」
松沢成文・鴻谷正博「二宮尊徳の遺訓」
岬 龍一郎「人は徳のある人に従いてくる」
童門 冬二「二宮尊徳の経営学」