栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

演奏会の隠れた楽しみ方

2006-06-18 22:38:06 | 雑感
 福岡市民オーケストラの定期演奏会に行ってきた。
友人がビオラを演奏している関係で聞きに行ったのだが、今回が二度目である。
前回は小林研一郎氏が指揮者を務めた時だった。
その時に小林氏が「福岡市民オーケストラのレベルは本当に高い」と言っていたが、演奏レベルはプロと比べても遜色ないだろう。
こんなオーケストラがプロではなくアマチュア活動で行っているのだから敬服する。

 小林研一郎氏は世界的に有名な指揮者だが、今回の指揮者、ユキ モリモト(森本恭正)氏はウィーン在住で小林氏に劣らず有名な作曲家・指揮者で、福岡市民オーケストラの指揮は過去何度か執っている。

 最近の指揮者は指揮棒で指揮するというより、指揮棒はあくまで体の一部であり、ボディパフォーマンスというか体全体を使って表現する傾向が強いが、モリモト氏もそんなエネルギッシュな指揮ぶりだった。

 演奏会で最も楽しいのはアンコールだ。
最近ではアンコール1回は当初から予定されている行動で、どんな演奏会でも必ず1回はアンコールに応えてくれる。
 しかし、応え方にも個性が表れるようで、どうせ予定の行動だからとサッサとアンコールに応えてそれで終わる人もいれば、観客をじらすというか、駆け引きを楽しむ人もいる。

 観客にとってもこの駆け引きが面白い。
さあ、どうだ。もう一度出てくるか。それともこれで終わるか、と思いながら拍手を続けるわけだ。
 観客も慣れてきているから、もうアンコールがないと分かればそれ以上に拍手を続けない。

 ところが、モリモト氏はその意味でも一流の指揮者だった。
鳴りやまない拍手に再度登場して指揮台に立った。
だが、一瞬考えるような素振りをした後、オーケストラの面々を立ち上がらせて彼らに拍手を浴びさせて、指揮棒を振らずに引っ込んでしまった。
これでは観客の方が納得しない。
アンコール演奏をするまで拍手を続ける。

 三度出てきて今度はアンコール演奏をして観客の期待に応えてくれた。
ここまではある意味セレモニー、スケジュールに盛り込まれた行動だ。
問題はこの後だ。
拍手の多さが勝負を決する。

 鳴りやまない拍手にモリモト氏は四度目の登場だ。
しかし、もう指揮棒は振らない。
オーケストラの紹介を再び行って下がる。
それにしても今回の演奏はすばらしかった。
だから私も含め聴衆は拍手を続ける。
さあ、どうだ。いままでは最初から予定していたスケジュール。
これで出てくれば本当にアンコールだ。
出てくるか、それとももう終わりか・・・。

 オーケストラの面々も少し顔を見合わせていた。
鳴りやまない拍手に彼らも解散するかどうか決めかねているようだった。
これは面白くなったぞ。さあ、どうする!
と思いながら拍手をする手に力を込めた。

 すると、登壇したのだ。
ところが、二度のアンコールはやはり予想外だったらしく、指揮台に立った後で譜面をめくり始めた。
打ち合わせをしてなかったのだ。
そのことが如実になったのは演奏を始めてすぐだった。
突然、指揮棒を左右に振って演奏を中止させた。

 急に演目を決めたからオーケストラが戸惑ったようだ。
もう一度、何という曲の何番目と周知徹底してから演奏を始めた。
この最後のアンコール曲は指揮者もオーケストラのメンバーも心なしかリラックスしていたように見えた。
ハプニング的な演奏で全員の緊張も解けたのではないだろうか。
クラッシック演奏会でこの種のアンコールはないだけに、とてもいい経験だったし、演奏会を何倍にも楽しめた。
よき聴衆がよき演奏を生んだかもしれない。



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1 コメント

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お礼及び日本人のリズム感 (yoshida)
2006-06-19 16:55:11
栗野様、吉田 潔(福岡市民オーケストラ ヴィオラ)です。

過分なる演奏会評ありがとうございました。

仰るとおり、われながら大変熱のこもったいい演奏会だったと思います。モリモト氏の練習(指導)は、日本人のリズム感を根底から覆すものです。いつもながらなのですが、モリモト氏曰く、ヨーロッパのリズム感は後打ちが主体というわけです。つまり、日本人が小学生の時代から教え込まれる例えば4拍子だと、「強、弱、中強、弱」と教えられますが、これは全くの間違い、というか、明治の時代に軍隊行進用に作られた音楽のためのリズム、だというわけです。これが、ヨーロッパでは、「弱、強、弱、強」と後打ちリズムになるというのです。そんな基本のリズムが、我々の演奏したフランクや、ラベル、ベートーベンに反映していたはずです。また、アンコールについては、まさに打ち合わせなしで、フランクの3楽章の終盤、クライマックスを突然やる、といいだして団員は少々慌てた次第です。しかし、管楽器の連中などは、いいところがもう一度やれるわけで大変喜んでおりました。このブログ批評は、指揮者のモリモト氏及びオケのメーリングリストでも紹介しておきます。大変ありがとうございました。

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