栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

トヨタの不正謝罪会見に見る不遜な態度

2024-06-12 16:30:46 | 視点

 トヨタグループの会長、豊田章男氏はトヨタ自動車の不正が明らかになった時、今後、グループの株主総会にはすべて出席すると明言したが、豊田自動織機の株主総会には急遽、出席しないことを表明しただけでなく、トヨタグループの他の株主総会にも出席しないとした。

 株主総会で追及されるのを嫌がった(恐れた?)のだろう。

敵前逃亡である。

 それにしてもメディア各社はトヨタの不正に対してあまりにも追求しなさすぎる。広告出稿量(料)が多い大スポンサーだから遠慮しているのか。そうとしか思えないが。

 私は豊田章男氏が記者会見した翌日に下記記事をメルマガで書いたが、どこも続いて指摘したところがなかった。

 残念ながらジャーナリズムは死んだのだ。

 

栗野的視点(No.827)                   2024年6月4日
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不正列島ニッポン(3)~トヨタの不正謝罪会見に見る不遜な態度
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 6月3日、国土交通省がトヨタ自動車など5社で不適切事案があったと発表し
たが、別に驚きはしなかった。ああ、やっぱりなと思っただけだ。

 すでに「栗野的視点(No.826):不正列島ニッポン(3)~横行するデータ改ざ
んに手抜き工事
」の「ダイハツの不正は25項目に及ぶ」項の中で次のように記し
ていたからだ。
 
 <不正が相次ぐ自動車メーカーの中で不正に手を染めていないように見えるの
がトヨタだが、日野自動車もダイハツ工業もトヨタグループである。
 そしてダイハツ工業のトップはトヨタの出身者が数代続いていることを考えれ
ば「トヨタは大丈夫」と言い切れるのかどうか。
 トヨタ出身の社長は現場の不正に気付かなかったというならトヨタ在籍時にも
現場のことには目を通していなかったのではないだろうか。>

 三菱、スズキ、日野、日産、SUBARU、マツダ、ヤマハの不正が明らかになる中
で、トヨタ、ホンダだけが不正に手を染めていないのは考えられない、と思って
いた。

 ダイハツも日野自動車もトヨタの子会社(日野は24年末まで)である。しかも
トップはトヨタ出身者とくれば「トヨタイズム」が現場に浸透しているか、浸透
させようとしているはず。
 お断りしておくが、ここで言う「トヨタイズム」はCMで謳っている「トヨタイ
ズム」ではない。トヨタ生産方式に代表される効率主義のことである。
 ダイハツ工業の不正等を見ていれば効率主義を突き詰めればこういう方向に向
かうだろうというのは予測できる。

 不正が発覚した後で指摘されるのが「おかしい」という声を上げにくい社内体
制(風通しの悪さと弁明しているが)の問題だが、これはオーナー企業ほど強い。
 トヨタは豊田氏が、スズキは鈴木氏が絶対権力者である。それに逆らったり、
直言できる者が社内にいるだろうか。恐らくいないだろう。直言まではできない
にしても社員は風を読んで、上の顔色を窺って仕事をする。オーナー企業ほどそ
の傾向は強い。

 当初からトヨタだけが聖人君子とは考えられなかった。むしろ不都合な真実が
発覚しにくい組織体質であり、今まで隠蔽してきたということだけではないのか。

 3日の記者会見もどこか他人事めいて聞こえた。不正を行ってきたことを「認
証制度の根底を揺るがすもので、自動車メーカーとして絶対にやってはいけない
ことだ」と謝罪しているが、謝罪の言葉の前半に「認証制度の根底を揺るがすも
ので」という注釈を入れている。
 謝罪会見の中継を通して見ていると、豊田章男会長は自社の不正謝罪をしなが
ら、実は国の認証制度の方を問題にしているということがよく分かる。

 例えば会見で記者から次のように質問された時の受け答え等を聞いていると随
分不遜な印象を受ける。

 記者:日野自動車の不正を受け、しっかりと調査すべきだったのではないか。
 豊田会長:過去にあったことを、仮にいうご質問にはお答えできない。

 次の言葉は当事者感が薄く他人事めいて聞こえる。
 豊田会長:一斉調査をさせられたことで、ものすごく我々も気づかされた。国
交省の方々にこういう場を持たせていただいたのは、非常にありがたい。

 さらに「不正を完全に撲滅するのは無理」「トヨタは完璧な会社ではない」と
言う言葉は、語そのものはその通りだが、謝罪会見で言うべき内容なのか。私に
は開き直りのように聞こえたが。

 この日の豊田氏の会見は一方で謝罪しながら、他方で国に認証制度の改革を要
請するという次元が異なる2つのことを話しているのはちょっと違うのではない
かと思わざるを得ない。
 また、不正があった車種に安全性の問題はないとも繰り返し述べているのも気
になった。
 エアバックの試験にタイマーで爆発させて行っているとか、本来、左右で行う
必要がある衝撃時検査を片側だけで行い、そのデータをもう片側にも適用してい
て「安全性に問題ない」と言えるのか。
 彼らが言う安全性は車の安全性で、そこには搭乗者の生命を守るという観点は
ないようだ。

 米国の議決権行使助言会社、インスティテューショナル・シェアホルダー・サ
ービシーズ(ISS)とグラスルイス社がトヨタグループの一連の不正問題の最終
責任は豊田章男会長にあるとし、6月18日の株主総会で豊田章男会長の取締役選
任に反対推奨をともに表明したのは当然でまっとうな助言だと思う。

 気になるのは国内メディアの反応で、新聞各社は大スポンサーであるトヨタに
遠慮しているのかトヨタの不正問題(細かい内容、体質、責任)より日本経済に
与える影響の方を危惧する論点になっていることだ。
 不正が長年に渡り繰り返し行われてきた問題の根にあるのはオーナー経営者の
権力集中とものいえぬ体質、拡大主義、効率優先、利益優先の経営があり、そこ
を問題にし、そこから脱しない限り、豊田氏がいみじくも言ったように「不正を
完全に撲滅するのは無理」だし、トヨタのトップがそれを認めているのだから、
トヨタから不正は今後もなくならないだろう。なくなるのは外部への発覚だけに
違いない。