
「アルファワン敦賀」というビジネスホテルに毛が生えたホテルで貰った「周辺マップ」を手にオレは夜の敦賀を歩いていた。
クルマの通りはそこそこあるが、人通りはほとんどなく、東京と比べると恐ろしく暗い夜の街を。
「周辺マップ」には、「アルファワン敦賀」の周囲にある居酒屋はスナックの地図と電話番号が書き添えられていた。
「さて、どこへ行こうか」。
なにしろ、7軒ほどの酒場が書き込まれており、どこから触手を伸ばせばいいのか、迷ってしまうのだ。
ホテルで貰った地図を頼りに「五臓六腑」という店を目指してみた。現在地から最も遠い店だったが、居酒屋らしい名前につられたのだ。真暗い町をひたすら歩く。時折、犬の散歩をする人を見かけるくらいで、ほとんど人通りはなかった。お店に着いてみて、がっかりした。「五臓六腑」は「博多もつ鍋」の店だったのである。まさか、敦賀に来て、博多料理の店に入ることもなかろう。オレは再び地図を広げて次の店を目指したのだ。
だが、ことごとくその期待は裏切られる。地図にはなかったが、通りすがりの店は広島お好み焼きの店であったし、「五縁」という店は、高級割烹風で、とても一人で入れる雰囲気ではない。「波月」はバーといった趣でオレの求める敦賀の酒と肴を出してくれる様子ではなかった。こうして、1時間にわたってオレは敦賀の町を西へ東へ右往左往したのだ。
結局、辿り着いた店はホテルから最も近い店。
「小料理 都」という民家を改修したような小さな店だ。こういったお店は常連さんが客のほとんどを占め、一見には冷たいイメージがある。
入りづらい。いかにも入りづらい、そんな雰囲気だ。
それでも、意を決してドアを開けてみた。すぐさま目の前に居酒屋が現れるのかと、思いきや、眼前には三和土のような空間があり、更に向こうにまたドアが見えた。少し拍子抜けした。
こじんまりとした店内だった。右側に小上がり。左側には厨房を囲むようにカウンターがしつらえてある。小あがりにはラフな格好をした酔客があり、カウンターにも2組の客がいた。オレは鍵の字になったカウンターの隅に腰を降ろした。
お店は初老の夫婦が営んでいるようだった。ビールは「ウェルサンピア敦賀」でたらふく飲んできた。そこで、お婆さんと言ってはまだ失礼な女性に、オレは日本酒(残念ながら銘柄は不明)と「へしこ」と呼ばれる鯖の粕漬けを注文した。「へしこ」とは、鯖に塩を振って糠漬けにした郷土料理である。
前日、福井市内を歩いた際、土産物屋に必ずといっていいほど、置かれていた代物だ。
「へしこ」が出てくるまでしばし時間がかかった。おじいさんが奥の厨房に行ったきり戻ってこない。恐らく「へしこ」をあぶっているのだろう。オレはお猪口に注いだ酒をちびちびやりながら、頭上にあるテレビを眺めた。
テレビは古畑任三郎の再放送が放映されていた。米メジャーリーグ、シアトルマリナーズのイチロー選手が出演した特別編である。既に本放送の際に一度見ていたから、特段気にもとめなかった。
むしろ、隣に座る男女が気になって仕方がなかった。聞きたくなくても、二人の会話が聞こえてしまうのである。もう不惑の歳をとうにすぎたであろう、熟年の男女は、その会話から想像しても、どうも夫婦でないようだった。二人は共通の知人のうわさ話に講じていた。日に灼けた逞しく太い腕、荒くれのようなやや乱暴な口調から、男は漁師のようにみえた。
一方の女性は、おばちゃんではあるが、艶っぽい仕草と身なりから水商売の女に見えた。
オレが2人を詮索していることなど彼らは露とも知らず、うわさ話に熱が入っていった。
そうこうするうちに、ようやく「へしこ」が運ばれてきた。早速、箸をつけて一口食べてみたのだが、その辛さに閉口した。
とにかく塩辛いのだ。
若狭地方の保存食ということだから、ある程度塩をまぶしているのは、想像できたが、これほど塩辛いとは。
もしかして、食べ方を間違っているのか、とも思った。ご飯やお茶漬けにまぶすのか、と。だが、お婆ちゃんは何も言わないし、壁に貼られた品書きにもしっかり一品料理として記されている。
そんな辛い「へしこ」をオレは正直「おいしい」とは思えなかった。翌日、取材先のN光モーターさんから、お土産として「へしこ」を頂いたが、ウチに帰って食してみたところ、家族の反応もイマイチだった。
そんな「へしこ」を何とかやっつけて、オレは店を出ることにした。どうもリラックスできないのである。お店も店のママも決して悪くはないのだが、常連ばかりで固められた客の中にひとりぽつねんと飲んでいる気後れのようなものがあったのかもしれない。
お酒の値段も「へしこ」の値段もチェック(ちゃんとメニューには各料金は掲載されている)いてこなかったが、お会計はちょうど1,500円だった。
店を出ると、やはり町並みは暗かった。ふと、海のほうに行ってみようかとも思ったのだが、大儀になって、近所のコンビニでビールを買い、ホテルに引っ込んで、テレビと共にそれを呷った。
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■ お風呂放浪記NO.04 ~ウエル サンピア敦賀~(敦賀市呉羽町)
クルマの通りはそこそこあるが、人通りはほとんどなく、東京と比べると恐ろしく暗い夜の街を。
「周辺マップ」には、「アルファワン敦賀」の周囲にある居酒屋はスナックの地図と電話番号が書き添えられていた。
「さて、どこへ行こうか」。
なにしろ、7軒ほどの酒場が書き込まれており、どこから触手を伸ばせばいいのか、迷ってしまうのだ。
ホテルで貰った地図を頼りに「五臓六腑」という店を目指してみた。現在地から最も遠い店だったが、居酒屋らしい名前につられたのだ。真暗い町をひたすら歩く。時折、犬の散歩をする人を見かけるくらいで、ほとんど人通りはなかった。お店に着いてみて、がっかりした。「五臓六腑」は「博多もつ鍋」の店だったのである。まさか、敦賀に来て、博多料理の店に入ることもなかろう。オレは再び地図を広げて次の店を目指したのだ。
だが、ことごとくその期待は裏切られる。地図にはなかったが、通りすがりの店は広島お好み焼きの店であったし、「五縁」という店は、高級割烹風で、とても一人で入れる雰囲気ではない。「波月」はバーといった趣でオレの求める敦賀の酒と肴を出してくれる様子ではなかった。こうして、1時間にわたってオレは敦賀の町を西へ東へ右往左往したのだ。
結局、辿り着いた店はホテルから最も近い店。
「小料理 都」という民家を改修したような小さな店だ。こういったお店は常連さんが客のほとんどを占め、一見には冷たいイメージがある。
入りづらい。いかにも入りづらい、そんな雰囲気だ。
それでも、意を決してドアを開けてみた。すぐさま目の前に居酒屋が現れるのかと、思いきや、眼前には三和土のような空間があり、更に向こうにまたドアが見えた。少し拍子抜けした。
こじんまりとした店内だった。右側に小上がり。左側には厨房を囲むようにカウンターがしつらえてある。小あがりにはラフな格好をした酔客があり、カウンターにも2組の客がいた。オレは鍵の字になったカウンターの隅に腰を降ろした。
お店は初老の夫婦が営んでいるようだった。ビールは「ウェルサンピア敦賀」でたらふく飲んできた。そこで、お婆さんと言ってはまだ失礼な女性に、オレは日本酒(残念ながら銘柄は不明)と「へしこ」と呼ばれる鯖の粕漬けを注文した。「へしこ」とは、鯖に塩を振って糠漬けにした郷土料理である。
前日、福井市内を歩いた際、土産物屋に必ずといっていいほど、置かれていた代物だ。
「へしこ」が出てくるまでしばし時間がかかった。おじいさんが奥の厨房に行ったきり戻ってこない。恐らく「へしこ」をあぶっているのだろう。オレはお猪口に注いだ酒をちびちびやりながら、頭上にあるテレビを眺めた。
テレビは古畑任三郎の再放送が放映されていた。米メジャーリーグ、シアトルマリナーズのイチロー選手が出演した特別編である。既に本放送の際に一度見ていたから、特段気にもとめなかった。
むしろ、隣に座る男女が気になって仕方がなかった。聞きたくなくても、二人の会話が聞こえてしまうのである。もう不惑の歳をとうにすぎたであろう、熟年の男女は、その会話から想像しても、どうも夫婦でないようだった。二人は共通の知人のうわさ話に講じていた。日に灼けた逞しく太い腕、荒くれのようなやや乱暴な口調から、男は漁師のようにみえた。
一方の女性は、おばちゃんではあるが、艶っぽい仕草と身なりから水商売の女に見えた。
オレが2人を詮索していることなど彼らは露とも知らず、うわさ話に熱が入っていった。
そうこうするうちに、ようやく「へしこ」が運ばれてきた。早速、箸をつけて一口食べてみたのだが、その辛さに閉口した。
とにかく塩辛いのだ。
若狭地方の保存食ということだから、ある程度塩をまぶしているのは、想像できたが、これほど塩辛いとは。
もしかして、食べ方を間違っているのか、とも思った。ご飯やお茶漬けにまぶすのか、と。だが、お婆ちゃんは何も言わないし、壁に貼られた品書きにもしっかり一品料理として記されている。
そんな辛い「へしこ」をオレは正直「おいしい」とは思えなかった。翌日、取材先のN光モーターさんから、お土産として「へしこ」を頂いたが、ウチに帰って食してみたところ、家族の反応もイマイチだった。
そんな「へしこ」を何とかやっつけて、オレは店を出ることにした。どうもリラックスできないのである。お店も店のママも決して悪くはないのだが、常連ばかりで固められた客の中にひとりぽつねんと飲んでいる気後れのようなものがあったのかもしれない。
お酒の値段も「へしこ」の値段もチェック(ちゃんとメニューには各料金は掲載されている)いてこなかったが、お会計はちょうど1,500円だった。
店を出ると、やはり町並みは暗かった。ふと、海のほうに行ってみようかとも思ったのだが、大儀になって、近所のコンビニでビールを買い、ホテルに引っ込んで、テレビと共にそれを呷った。
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■ お風呂放浪記NO.04 ~ウエル サンピア敦賀~(敦賀市呉羽町)
鮒寿司のような。
きっとお土産屋さんで売ってたのは、
「観光客の誰でも食べれるへしこ」であって、
本当のへしことして、地元に愛されていたのは、
こんなショッパイものなのかもしれません?!?!
ちなみに、東京では、一度も聞いたこともありませんでした。
今晩、神田の「みますや」に行ったんですが、案の定満員でした。
仕方なく、神田駅まで歩いて別の店を物色。
一瞬、「新八」に行こうと思ったんですが、結局「もつ焼き カミヤ」で飲みました。
確か、「まき子の酒」で「新八」に行かれていましたよね。読んだ覚えがありますが、どうでしょうか。一人飲みもOKですか?
また、来週リベンジしようと思っています。
私が以前行った時は5人で、しかも鍋をつついてたのです~。
なので、私としては、むしろ熊猫刑事さんの
「リベンジ」を期待しております!
なにしろ、ケチケチ団の一員ですから。
思い切って行ってみます。
また、報告しますね。
そのままだと塩辛いだけかと。
高級なところだと、生へしこと言うものが美味しいですよ。
今度はへしこ茶漬けをお勧めします。
全国に魚の保存食は数々あれど、その中でもへしこは群を抜いてます。
敦賀に、また行きたいです。