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居酒屋放浪記NO.0296 - 300円均一、路地裏から - 「力彌(りきや)」(浜松市中区)

2009-12-04 13:30:46 | 居酒屋さすらい ◆地方版
 閑散としている。浜松の飲み屋街に人が見られない。
 数年前、軽自動車の販売が200万台を超えた頃とは雲泥の差だ。あの当時、この辺りはタクシーが頻繁に通り過ぎ、多くの酔客が大手を振って歩いていた。
 ところが、どうか。もう7時も過ぎたのに、ほとんど人がいない。

 スズキ、ヤマハの城下町。自動車販売は年度末の最盛期なのに、工場のラインは多くが止まったままだという。
 この事態は尋常ではない。

 飲み屋街をぐるりと一回りして、狭い小路の店が気になった。1mにも満たない幅の小路があり、そこを入っていくと古ぼけた構えに年季の入った暖簾の店を見つけた。
 モルタルの壁の店だが、かなり古そうな雰囲気だ。
 引き戸もいい風合いにこなれていて、店構えを引き締めている。しかし、外観からは店のなんたるかは想像がつかない。

 引き戸を開けて、中に入ると、還暦を過ぎたと思われる初老のマスターが迎え入れてくれた。
 「いらっしゃい」
 店の中は縦に細長く、L字のカウンターのみ。20人も入れば満員になってしまいそうな小さな店だ。
 煮締まった座布団が敷いてある椅子に腰掛けて、瓶ビールを頼んだ。
 キリンラガー、値段は不明。
 お通しは小鉢に入った「ほうれんそうのおひたし」。
 間髪入れずにビールとお通しが出てくるのが嬉しい。

 カウンターのメニュー表には「全品300円均一」と書いてある。
 店頭にはそんなことは一言も書いていなかった。
 もう少し宣伝してもいいのでは。

 メニューはいろいろ。
 「塩辛」という手軽なメニューから、「天ぷら」に至るまでの手作りメニュー。
 いわゆるオーソドックスな居酒屋メニューはないが、オリジナルメニューがあってけっこう楽しい。

 肴を選んでいるとき、店内は静まりかえっていた。
 僅かに聞こえてくるのは、感度が悪い14インチのブラウン管からWBCアジアラウンド開幕戦の中継の音。

 「『おでん』(300円)を下さい」。
 わたしは努めて快活に言った。

 マスターは小さな声で「はい」とだけ言った。
 余計な口を挟まない人らしく、黙々と仕事をしている。

 沈黙が嫌で、マスターに話しかけた。
 「景気はどうですか?」

 するとマスターは意外なことに大きな声でこうまくしたてた。
 「皆、若いのはチェーンの居酒屋に行っちゃうよ」。

 わたしは、ビールをグイと飲み干して、お酒をお燗につけてもらうことにした。
 肴は「あさりの酒蒸し」。

 マスターは一人で切り盛りしているのだが、てきぱきと仕事をこなす。
 わたしは、黙ってマスターの仕事ぶりを眺めているのだった。

 「あさりの酒蒸し」は一人で食べきれないほどのものが出てきた。
 これもたったの300円。
 お酒は本醸造。銘柄は不明。
 「あさりの酒蒸し」、なかなか美味。

 「この店、もうだいぶ古いんですか?」
 しんみりとわたしが聞くと、やはりマスターは大きな声で「もうね、だいぶ長いことやってるよ」と言う。

 わたしの背後の引き戸が風でガタガタと揺れる。
 外はだいぶ寒いのだろう。

 こんな夜は300円の肴で燗酒をひっかけているのも決して悪い気持ちではない。
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