「梅ふく」を目指してアーケードを歩く。
相変わらず人通りの少ないシャッター通り。自分以外で歩いている人は、前を行く紳士一人のみ。
そろそろ右に曲がると「梅ふく」かしらと思った瞬間、前を行く紳士がその角を右に行く。まさか、行き先が同じなんて。紳士は「梅ふく」に吸い込まれていった。
その後に続いて、自分も「梅ふく」に入ると、女性の店員さんが狼狽しながら出てきて申しわけなさそうに、「満席なんです」と言った。
見ると、満席ではない。
この後予約が入っている可能性もあるが、自分は「一見だからか」と感じて、店を出た。
直後、ジャンさんにショートメールを送ったら、すぐに返事が来た。
「一見でも大丈夫な筈ですがね。こんな早い時間にけしからん」と。そして、ジャンさんおすすめの店も教えてくれた。けれどいずれも開店が18時以降。ただジャンさんは未訪だが、盟友さんおすすめの店の名前も記載されていた。
それが「酒笑」だった。
早速調べてお店に向かった。
その店は路地に入った小さな店で、何年か前に高崎に来た時、チェックしたことがあるのを思い出した。
ただ、ものすごく入りにくい。
店頭にはメニューが貼られた立て看板がある。日本酒のラインナップがいい。値段も出ているから一応安心のお店だ。ただ、メニューの下に記載されている注意事項が気になった。
「当店はホームページを一度も作成したことはなく、Googleや『食べログ』に断りもなく掲載されていて」、不本意みたいな文言が記されている。わざわざこれを書くというのは、店主はちょっと神経質な人かもしれない。一見お断りではないが、警戒されるだろうとみた。
お店に入ってみた。
カウンターメイン。小上がりもあるがカウンター7席の小さなお店。2人のリーマンが飲んでいて、その隣りに座らせてもらう。
頭上のホワイトボードに肴メニュー。飲み物は日本酒の他に「ホッピー」もあるようだ。店主一人で切り盛りしているようで切れ目なく仕事をしている。「お客さん、何にします?」という声もない。こういう店主は気をつけなければならない。しかし、「早く頼まなきゃ」という焦りは禁物だ。
まずは飲み物から戦略を立てる。
日本酒のラインナップが豊富だから、ここは酒をメインに行くべきだ。ただ今日は異様に暑かった。やはりビールは飲みたい。まずは生ビールで、立ち上がりを落ち着かせようか。
「生ビールお願いします」とちょっとへりくだってオーダーした。
店主は目も合わさず、「あい」とだけ答えた。
肴が問題だ。
ホワイトボードにはセットが強調されている。1,800円と2,800円の2種類の「おひとり様セット」。ともにお通し2品。刺身と焼き魚が付き、「本日の料理」が出る。違いは本日料理が一品か二品かである。セットはかなりお得のようだし、店主はそのセットに誘導しようという意図も見え隠れする。ここはセットで攻めるべきだ。1,800円でもけっこうボリュームがありそうだし、その安い方を店主に告げた。
Googleとか「食べログ」とかを気にしているみたいだから、ここは画像を撮らない方が賢明だと思い、料理の撮影はやめておく。
やがて小さな小鉢が2つきた。まずはお通しか。
ひとつは山菜の煮しめ。酒飲みが好きなやつ。結構な量があり、お通しの域を超えている。これがなかなかに旨い。
リーマンと自分の3人だったカウンターが少しずつ賑やかになっていく。自分の隣には痩せた若い男が座り、店主にお土産を渡した。常連らしい。
やがて刺身が出てきたタイミングで、店主に「群馬泉」をお願いした。日本酒のラインナップには「田酒」とか「作」とかもあったが、ここは地元の酒がいい。
その頃になると、カウンターは満席になり、さらにお客さんが来ると席をひとつ増やして、カウンター客はそれぞれ右に少し詰めた。
お店が盛況になると店主はあわただしくなったが、口も滑らかになった。
「◯◯ちゃん、連休どこにも行かないの」。
「△△さん、釣り行ってる?」
そして、自分にも話しかけるようなった。
「お客さん、どっから?」
「東京からですよ」と答えると、「なんで高崎に?」と訊いてきた。
「久しぶりに休みがとれたから富岡製糸場に行ってみました」。
「へぇ」。
そんなやりとり。
そんな他愛のない会話でも、気難しそうな店主とのやりとりは楽しい。
やがて焼き魚が来て、二杯目の「群馬泉」をお願いした。
その時、「なんでうちに来たの?」と店主。
「友人から教えてもらったんですよ」と伝えた。
その時、自分はこう感じた。
店主は常連さんを大切にしたいのだなと。ネットを見て来る一見のせいで、せっかく店主を慕って来店する常連さんが入れないのを避けたいんだろうと。
話せば気さくな店主である。
恐らくだが、店主はフィーリングやシンパシーを感じる人を選んでいると思う。小さなカウンターのお店だし、全てのお客さんを受け入れられない。仕事にこだわりを持つ店主のようだから、自分も楽しく仕事をしたいし、お客さんにも楽しんでもらいたい。気の合わないお客さんは淘汰するような選別が店主にあるような気がする。
その後は常連さんとも楽しい時間を過ごさせてもらった。
酒も料理もおいしく、本当に楽しかった。
また来たいと思う。
アウエイ状態にもなりかねない。こっちもあまり話しかけられるのが煩わしいときもあるし。
盟友はよくこの店に入れたなぁ。改めてどんな店だったか聞いてみます。
実はこないだ群馬の業務を全て引き継いだので、業務で行くことは公にはなくなったのです。
永遠のテーマですね。
僕もこのケースにはよく遭遇しますし、先日日記にも書きましたが高崎はたまに行きますがちょっと敷居の高い方の町だと思っています。
選別されるといい気分はしないけど、店主側の気持ちもそれはそれで正当。ここで「客を差別するのか」とネットに書き込むのも違う。この辺りは双方のクリエイティビティの勝負ですね。
今はスタッフに裁量権がそれほどないので無理ですが、以前は海外で安い航空券を買って、安いから変更ができないにもかかわらずイチかバチか航空会社のオフィスに行って泣いてみたり笑わせてみたりクリエイティブな戦略でまんまと変更してもらえたりした例もたまにありました。
同じ方法で誰かが頼みに行ってみてもそれはダメ(笑)。オリジナリティがないと。
数式や論破で割り切れない世界が好きです(でした)。
こにちは。
酒場は放電しにいくことが目的なので、人と交流できなくてもOKですし、AWAY感も特段問題なしです。
ジャンさんのように話しかけられたくないという場合もあるでしょう。
声をかけられたときだけ話すようにしています。
ジャンさんは第二の故郷高崎から少しずつ足が遠のいてしまうのではないですか?
こんにちは。
京都みたいにはなからよそもんに冷たいっていうのもどうかと思うのですが、田舎は基本排他的だと思っています。
にこにこして、「よく来ましたねー」って喜んでくれていても、内心そうでなかいというようなことはよくありますね。
多かれ少なかれ選別もあるでしょう。人間だもの、ですかね。
ただ、無邪気に気づかないという年齢ではないし、こっちもある程度構えるのは必要かなと思います。居酒屋を巡っていて、そういうものには敏感になりました。
疲れているときはチェーン店にも入りますし。
世の中、段々融通が利かなくなっていますね。航空会社も鉄道会社も、町の居酒屋ですらコンプライアンスを盾にNG事項が増えています。