
「しげ家」を切り上げて2軒目。目指すは、かつて怖じけづいて入れなかった店。
新梅田食堂街の「奴」。
あれは5,6年ほど前だったか。梅田の地下街を歩いていたとき、店に入りきれない人の渦があり、中を覗くと、老いも若きも立って酒を飲んでいた。まるで一昔前の山手線並み。店に入るには、人を押し退けていく覚悟が必要なのだが、ボクには到底できることではなかった。
あれから6年。とうとうリベンジする時がきた。そう思い、ボクは新梅田食堂街を歩き、記憶をたどりながら、店を探した。
店の佇まいは、6年前と変わっていなかった。紫の暖簾に黒木の格子戸。風格は充分だ。店内を覗くと、以前のような混雑ではない。チャンスだ。少し緊張するが、とりあえず入ろう。
この店には独特の緊張感がある。バリアのような、目に見えない結界のような。
店に入ってポジショニングするが、飲み物をどうするか決めていない。
すると、案の定「飲み物なんにしますか?」と声がかかる。
いや、ここはもう「日本酒」でいくしかあるまい。半紙で書かれた達筆のメニューを見て、それが一番いい選択だと確信した。
「カンパチ」、「しまあじ」、「たこ造り」。おや?「くじら赤身」もあって、これが僅か300円。
ボクはもう迷うことなく、お燗と「くじら赤身」をオーダーした。
くじら料理は、この他、「くじらのさえずり」があり、それはもう売り切れ。この他、天ぷら各種の充実ぶりが素晴らしい。
カウンターにはおばんざい風に料理が出され、これを好きにとっていく方式。どれもおいしそうで、何を食べようか、ついつい迷ってしまう。
ふと、左隣の人が食べているものに目が止まった。
煮込みのような椀には、どっさりと豆腐が入り、青ネギがわんさとかかっている。ものすごいボリュームだ。
これか。この店の人気の秘密は。ものすごいボリュームと安価な酒肴。
店のリズムも心地がよい。
これこそ、お店とお客の織りなすハーモニー。
今度は右隣のおじさんに目を向けると、これまたものすごいボリューミーな皿を頼んでいる。豆腐が入っていないが、魚のあらのようなものが見える。よくよく見ると、隣の隣のおじさんも同じものを食べている。右隣のおじさんにそれを指差して、「これはなんですか?」と訊くと、「あら煮」と返ってきた。
すかさず、ボクもそれを頼んで、食べてみると、なんともまぁ、豊かな味。これすごい。
よくよく見ると、カウンターに立つ、ほとんどのご仁が、「あら煮」をつついている。食べられる身は、あまり多くないが、コクのある、深い味に、思わずハッとさせられる。
すごい充足感。満足度120%。
すばらしい立ち飲みである。
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