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蕎麦屋さすらい 002 - ありがとう存じます - 「かんだやぶそば」(千代田区神田淡路町)

2016-02-22 22:43:18 | 蕎麦屋さすらい

構想2か月、ようやく念願の着物de蕎麦屋が実現した。

末広町駅から秋葉原の電気街を抜け万世橋を渡る。一瞬にして人の気配が少なくなる。日本有数のターミナル駅としてにぎわったといわれる万世橋駅はもう今は昔。だが、駅前通りの往時の賑わいを今も残す一角がある。木造の料理屋が立ち並ぶ神田淡路町の一角。「かんだやぶそば」にボクは向かった。

記念すべき和装デビューはこの店と決めていた。

幕末の頃より営まれていた蕎麦屋「蔦屋」の流れを汲む老舗。長いこと、神田と秋葉原界隈で仕事をさせてもらっている自分にとって、「かんだやぶそば」はひとつのあこがれだった。

 

店に着くと、やはり案の定多くの人が並んでいた。

吹きすさぶ寒風が身に沁みる。ボクの後ろに並ぶカップルの声がボクの心に突き刺さる。

「店の回転が悪いのかしらね。なかなか客が出てこない」(女)

「昼間っから酒飲む奴がけっこういるんだよ」(男)

20分後。少し行列が進み、店内が見渡せるところまできて、男は店内を覗き込み、

「ほら、昼間っから酒飲んでるやつがいっぱいいる」(男)

「ほんとね」(女)

 

「なんか文句あっか。自分これから酒飲みますけど。昼間っから」

ボクは心の中でこう酒んだ。もとい叫んだ。

でもね、問題はそこじゃない。

問題は長っ尻かどうか。

 

並ぶこと40分。ようやくテーブルに。

お酒の燗と「焼きのり」。

焼きのりを入れたちょっと豪華なあの箱が粋でいい。「焼き海苔」が何十倍もの価値を持って現れる。あの厳かな雰囲気がいい。

その雰囲気だけで十分に酒がうまい。それだけでお金を払う価値がある。

しかも、この海苔箱。下段に炭が入っているらしく、ほんのりと温かい。

1枚とって蓋を締める。

パリッと軽やかな音がして口に広がる磯の香り。間髪入れず猪口をつまんでくいっとやる。海苔の味に酒は甘味を増して喉を通過していく。

なんてうまいこと。「焼き海苔」、酒、そしてお通しの練り味噌を交互にちょびちょびと。

たまらん。蕎麦前。

これは昼飲ミストの出した古くて新しい答え。

 

そして、「せいろうそば」。

やや緑がかった蕎麦。これが噂に聞くクロレラを混ぜたという外1の蕎麦か。

いかにも。いかにも。

色がよく、艶めかしさすら感じさせる1本1本の蕎麦。

早速、つゆにひたして手繰る、手繰る。

 

ツーっ。

これか、喉越しというのは。少し噛んで喉に流す。弾力のある蕎麦がするりと喉に収まっていく。

つなぎいっぱいの蕎麦ならこうはいかない。

ずるずるずる。

これか。これなのか。

 

そばの汁。

生返しの汁はピリっとくる辛さ。個人的には辛いつけ汁のほうが好きだ。

おいしい。

みりんも多めなのか。返しのバランスがいい。単に辛いというものでもない。

 

さて、蕎麦を上がりおえる直前に蕎麦湯が運ばれてきた。

この気配りがまたいい。

さてさて、長っ尻はよくない。店をたつと、ボクの後ろに並んでいたカップルはまだ蕎麦を手繰っていた。

だから、昼から飲んでいる奴が回転を悪くしているわけではないと思う。

 

「ありがとう存じます」。

いえ、こちらこそおいしいお酒と蕎麦、ありがとう存じます。 

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