構想2か月、ようやく念願の着物de蕎麦屋が実現した。
末広町駅から秋葉原の電気街を抜け万世橋を渡る。一瞬にして人の気配が少なくなる。日本有数のターミナル駅としてにぎわったといわれる万世橋駅はもう今は昔。だが、駅前通りの往時の賑わいを今も残す一角がある。木造の料理屋が立ち並ぶ神田淡路町の一角。「かんだやぶそば」にボクは向かった。
記念すべき和装デビューはこの店と決めていた。
幕末の頃より営まれていた蕎麦屋「蔦屋」の流れを汲む老舗。長いこと、神田と秋葉原界隈で仕事をさせてもらっている自分にとって、「かんだやぶそば」はひとつのあこがれだった。
店に着くと、やはり案の定多くの人が並んでいた。
吹きすさぶ寒風が身に沁みる。ボクの後ろに並ぶカップルの声がボクの心に突き刺さる。
「店の回転が悪いのかしらね。なかなか客が出てこない」(女)
「昼間っから酒飲む奴がけっこういるんだよ」(男)
20分後。少し行列が進み、店内が見渡せるところまできて、男は店内を覗き込み、
「ほら、昼間っから酒飲んでるやつがいっぱいいる」(男)
「ほんとね」(女)
「なんか文句あっか。自分これから酒飲みますけど。昼間っから」
ボクは心の中でこう酒んだ。もとい叫んだ。
でもね、問題はそこじゃない。
問題は長っ尻かどうか。
並ぶこと40分。ようやくテーブルに。
お酒の燗と「焼きのり」。
焼きのりを入れたちょっと豪華なあの箱が粋でいい。「焼き海苔」が何十倍もの価値を持って現れる。あの厳かな雰囲気がいい。
その雰囲気だけで十分に酒がうまい。それだけでお金を払う価値がある。
しかも、この海苔箱。下段に炭が入っているらしく、ほんのりと温かい。
1枚とって蓋を締める。
パリッと軽やかな音がして口に広がる磯の香り。間髪入れず猪口をつまんでくいっとやる。海苔の味に酒は甘味を増して喉を通過していく。
なんてうまいこと。「焼き海苔」、酒、そしてお通しの練り味噌を交互にちょびちょびと。
たまらん。蕎麦前。
これは昼飲ミストの出した古くて新しい答え。
そして、「せいろうそば」。
やや緑がかった蕎麦。これが噂に聞くクロレラを混ぜたという外1の蕎麦か。
いかにも。いかにも。
色がよく、艶めかしさすら感じさせる1本1本の蕎麦。
早速、つゆにひたして手繰る、手繰る。
ツーっ。
これか、喉越しというのは。少し噛んで喉に流す。弾力のある蕎麦がするりと喉に収まっていく。
つなぎいっぱいの蕎麦ならこうはいかない。
ずるずるずる。
これか。これなのか。
そばの汁。
生返しの汁はピリっとくる辛さ。個人的には辛いつけ汁のほうが好きだ。
おいしい。
みりんも多めなのか。返しのバランスがいい。単に辛いというものでもない。
さて、蕎麦を上がりおえる直前に蕎麦湯が運ばれてきた。
この気配りがまたいい。
さてさて、長っ尻はよくない。店をたつと、ボクの後ろに並んでいたカップルはまだ蕎麦を手繰っていた。
だから、昼から飲んでいる奴が回転を悪くしているわけではないと思う。
「ありがとう存じます」。
いえ、こちらこそおいしいお酒と蕎麦、ありがとう存じます。
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