
芝大明神の商店街を歩く。
かつて、ここに角打ちがあったからだ。それは、まだわたしが芝大門で働いていた頃。
だが、いつしかその店は閉めてしまった。その酒屋の脇をすり抜けて南下していく。
あぁ、もっと早くこの店を訪れていなければならかなったと。今更ながらに思う。
大門の交差点に出た。右は増上寺。左には貿易センタービル。
そして、その手前には白煙をもうもうと吐く秋田屋がある。
16年ぶりに秋田屋へ。
そう、既述したが、わたしは17年前に2年間ほど、芝大門で働いていた。その当時、一度だけ仕事仲間と秋田屋に来たことがある。
浜松町で一番有名な居酒屋。昭和4年の創業だったか。その歴史も古い。
昼間15時の開店とともに、席は速攻で満席になる。席にあぶれた人たちが、外の路地に用意されたビールケースのテーブルで立って酒を飲む。したがって、ここは立ち飲み屋ではない。
厳密に言えば、立っても飲める店である。
2006年頃に改築のため、一時期店を休んでいた。どんな店で復活するかと思ったら、全く変わらない店舗レイアウトで再開した。そして、またもや連日満員である。
その秘密は間違いなく良質のやきとんにあるだろう。身が大きなやきとん。隣町の市場から買い付けられる最上級のもつ。それに尽きるはずだ。
店の中を覗くと、僅かにひとつの席がぽっかりと空いていた。
「お兄さん開いているよ」と名物のおかみさんの声。
「いや、外でいいから」と、空いている立ち飲みスペースを指さして、自ら立ち飲みを志願した。
立って飲まなければ意味がないから。わたしの場合。
「生ビール」(550円=キリン)に「もつ煮込み」(450円)を頼む。
そう、ここに来て「煮込み」を食べないのはモグリかもしれない。
「煮込み」は白味噌と赤味噌の合わせ味噌。小鉢にたっぷりと入ったシロ、そして時々混じるのはフワか。この上に美しい刻みネギがのせられ供される。
まずは香りでノックアウト。あたたかな湯気とともにいい香りが顔を覆う。そしてしゃくしゃくと歯ごたえのいいシロ。
うまいよ。マジで。
これだけで、この店の神髄が分かるだろう。
次に冷や酒「高清水」。そして「ハツ」を焼いてもらうことに。
外で飲む酒は極めて寒い。ふと大門交差点の向こうを見た。
クリスマス色に彩られた東京タワーが寒さに滲んで見える。
素敵だ。わたしはポケットに手を突っ込み、冷や酒を飲みながら、東京タワーを見上げる。
行き交うサラリーマンとOLたち。その世界とわたしは今明らかに違うところにいる。
立ち尽くすわたしと東京タワー。まるでわたしは東京タワーとともに立ち飲みをしている感覚に陥った。
東京タワーとともに。
ハツが俄然うまい。身の大きさは申し分なく、焼き方から身の柔らかさまで、ほぼ完ぺきな焼き物。
そう、食べ物の品質も最高だが、実はこの店の人気の秘密は、このシチュエーションにもあるように思う。
東京タワーとともに、東京タワーと一緒に立ち飲みできる店は、恐らく秋田屋だけではないだろうか。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます