
上野はだだっ広い。中央通りを西に超えても住所は上野。かつての上野黒門町は下町の風情が今も残るものの、蔵前橋通りを境に一変する。
仲町通りは韓国料理、キャバクラ、居酒屋が軒を連ねる、猥雑な街。この一角はごみごみとして、どこかほこりっぽくもあり、不思議な空間だ。
北に不忍池を望み、その向こうは上野の山。風光明媚とはいかないまでも、その風景は東京とは思えない異質ものだ。
たまにこの一角を通って、お店をチェックしたりするが、立ち飲み屋はかつて存在しなかった。
だから、そこに立ち飲み屋を見つけたときは、大きな驚きを持ったし、ボクはその瞬間、後の予定すら忘れて、気が付いたときにはもう店に入っていた。
「もつくし」というらしい。
不思議な語感だが、もしかすると「もつ串」なのかもしれない。
瓶ビールが390円。
これは安い。消費税引き上げ前の「たきおか」「カドクラ」と同じ値段ではないか。
御徒町では今や「かっぱ」が毎週月曜日に瓶ビール価格を300円にしている。だが、それも常時ではない。日常的な価格としては上野最安タイといっていい。
ちなみに生ビールも390円である。瓶と生の値段が同じというのも珍しい。
つまみに「煮込み3点盛り」を頼む。
恐らくもつの各部位3点が入った煮込みと推測できる。
シロは当然として、あとの2点はなんだろうか。ハチノスにガツか。それともセンマイか。とても食欲をそそるネーミングである。しかし、注文すると実はそうではなかった。まずひとつが「牛すじ煮大根入り」の醤油味。次に「豚もつ豆腐入り」のみそ味。そして3つ目が、「牛もつ」の塩味の3点を賞味できるという変わり種。いやはや、3つも食べられないよ。3点盛りはやめて、そのうちのひとつを単品で頼むことにした。煮込みに豆腐は外せないからみそ味を選ぶ。これが大正解だった。豆板醤が隠し味になって、コクのある煮込みに仕上がっていた。これはうまい。
店の主人は若いお兄ちゃん。愛想はなく、若い女性客2人組と楽しそうに談笑している。それが店の雰囲気を悪くしている。最初にいた先客のおやじは、その後さっさと勘定を払い出ていってしまった。
しかし、この若い女性はこの界隈で働くウォータービジネスの方々なのだろうか。この「もつくし」は決してバル系の立ち飲みで、どちらかといえば、オヤジ系の店である。その中にあって、20代女性2人は目に留まる。
瓶ビールをやっつけて、「トマトハイ」(350円)に。なんとなく。ただなんとなく。
よくよくみると、「あじなめろう」や「しめさば」が200円で食べられるというのもうれしい。もつ焼きと魚ものが同時に食べられる立ち飲みはそう多くはない。
どれ、魚の味はどうだろうかと試しに「まぐろ刺し」(200円)を頼んだが、悪くはなかった。量的にはそれなりのものだったが、いまどき刺身が200円というのも本当にうれしい。
気が付けば、「トマトハイ」をおかわりしていた。
いや、自分には予定があったのだ。早く、行かねばと思い、お勘定すると3杯飲んで、刺身と煮込みを食べたというのに、たったの1,500円。ちょっと、もうちょっと、お金をとってもいいんじゃないかと思いながら、ボクは店を後にした。
2か月前、ふとしたことで、この店の前を通ると、閉店していた。
実に呆気ないとも思いながら、立地的には、この仲町通りは立ち飲み屋として難しいと思う。駅から遠いのである。
聞けば「もつくし」は浅草ホッピー通りに繁盛店があるらしく、上野の店はその多店舗展開店らしい。浅草ホッピー通りにそんな店あったっけ?と思いながらも、この煮込みの発想は完全にホッピー通りでしのぎを削る店だからこそ切磋琢磨されたのだと納得する。
この店がアメ横に殴り込んで来ていたら、面白い存在になっていたのではないかと思う。
浅草は座り飲みかな?
有楽町にもお店があるらしい。
すぐ、イメージできないけど。
ホッピー通りはロックの再開発で縮小かな?
11ヶ月行ってない。